なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略/冨山和彦
メディアでの評判も高いようだが、私の信頼すべき知人の皆さんも複数が推薦していたので、「これは読まねば!」と思っていたのだが、少々遅くなってしまった。
読んでみると確かに、好評がよく分かる。素晴らしい考察だ。いつも思うことだが、頭の良い人の本を読むと、文章を読んでいるだけで気持ちが良くなる。
本書はG(グローバル)*1とL(ローカル)*2、という二つの企業モデルを提示することで、(私も含めて)皆が何となく感じている経済政策・経済言説に対するモヤモヤをスッキリと見通すことを可能にしてくれた。モデルの力、フレームワークの力を感じる。
私の専門分野は人事だが、「人事の世界でもGを前提とした言説がLに影響を及ぼして結果、ちょっとズレていることがあるよなぁ」とか「商売はGでも人事はLだったりするなぁ」とか「日本の義務教育って基本的にはLの人材を育てる仕組みであって、G人材を育てる仕組みは無いよなぁ」とか色々と思いながら読んだ。この辺りは真剣に整理して、今後の自分の仕事に活かして行く予定。大いに、触発された。
「すき家」労働環境改善のための調査報告書
既に話題を集めており、ヤフトピはじめ、ネットの記事にもなっているが、それで分かった気にしてはもったいない。
これは全文必読レベル。
http://www.sukiya.jp/news/tyousahoukoku%20A_B.pdf
経営者は責められるべきだろう。それだけではない。労働基準監督署は何をしていたのか。勧告なんて屁の突っ張りにもなっていないことが分かる。「女性の輝く国」を掲げる行政なら、まずはこういう企業を摘発することにもっと本気になるべきだと思う。
それにしても、弁護士は訴えかける文章がうまい。最後は涙がこぼれそうになった。
日産V-upの挑戦 カルロス・ゴーンが生んだ課題解決プログラム/日産自動車(株)V-up推進・改善支援チーム,
日産V-upの挑戦 カルロス・ゴーンが生んだ課題解決プログラム
- 作者: 日産自動車?V-up推進・改善支援チーム,井上達彦
- 出版社/メーカー: 中央経済社
- 発売日: 2013/03/26
- メディア: 単行本
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日産社内の改革・改善手法をまとめた本。TQMやシックス・シグマのような位置づけ。と、書くと古びた手法と思われるかもしれないが、このように「プロセスを標準化する」という発想は、社員が多様化・国際化していく今こそ重要な手法なのだろうと思う。そういう意味では「グローバル経営」「グローバル化」の参考図書とも言える。
世界の経営学者はいま何を考えているのか?/入山章栄
世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア
- 作者: 入山章栄
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2012/11/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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アメリカを中心とした世界の「経営学」の研究スタイル、状況が経営学の中のサブ分野横断的に、俯瞰的に分かる本。今までこういう本は無かったと思う。
少しオタク的にいうと日本の経営学を対象としたこういう本(というかムック)は昔あった。朝日新聞かどこかが出していた「経営学がわかる」というヤツで、当時駆け出しコンサルタントだった自分はそのムックを割と熱心に読んだものだったが、今のような日本の地位も衰退しグローバル化が叫ばれる時代にはまさに本書のような知識がいよいよ必要なのだと思う。本書が実務家に即、実益のあるタイプの本とは思わないが「経営学」について何か話すような立場にある方には必読の一冊ではないかと思う。
本書の素晴らしい点のもう一つは、記述のスタンス。しっかりとした情報に基づきつつ、不偏不党的で、そして対象(経営学)への愛を感じる記述。これがとても良かった。
さて、私も一応「経営学修士」という肩書を持つ立場で、経営学についてはそれなりに勉強した。
本書でも論じられている「経営学って社会科学なのか?」という問いについては、日本の一流経営学者もかなり深く考えてきたことを知っている。(というか、この点を深く思考するのが、一流の経営学者の必要条件だと思う)本書で紹介されたアメリカで主流となっている「理論→統計分析」という研究スタイルについて、これらの先生は色々反論したいことはあるだろうな〜と思う。どうやら実態としては完全にガラパゴスらしい日本だが…。以下にそんな考察(経営学と社会科学性について)が掲載された書籍を少し紹介しておきたい。(どれもうちの本棚のお宝として並んでいる。専門家向けです)
- 作者: 伊丹敬之
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2001/12
- メディア: 単行本
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- 作者: 石井淳蔵
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/04/21
- メディア: 新書
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- 作者: 沼上幹
- 出版社/メーカー: 白桃書房
- 発売日: 2000/03
- メディア: 単行本
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- 作者: 三品和広
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2004/09
- メディア: 単行本
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他にもあると思います。
言葉力が人を動かす―結果を出すリーダーの見方・考え方・話し方/坂根正弘
言葉力が人を動かす―結果を出すリーダーの見方・考え方・話し方
- 作者: 坂根正弘
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2012/02/24
- メディア: 単行本
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コマツの坂根会長といえば、今一番、発言に説得力のある経営者のおひとり。これまで、断片的に記事やインタビューなどを読んできたが、初めて本を読んだ。以下本書で印象に残ったところ。大意のまとめ。
・改革にあたっては全体最適を貫く
・自分に腹落ちした言葉でしか話さない。世の中で流通している言葉をそのまま使わない。自分で納得できる言葉にアレンジして使う。
・(社長として)色々な資料を参考にしたり、部下にも分析をさせるが、最後は、自分の言葉で、自分が理解・吸収したことしか話さない。他の人が作った原稿をそのまま読む、ということは自分はできない。
・「端的な一点の事実」を挙げて話を突きさす(本書では、少子化、という通説に疑問を持ち、コマツ社員の女性の子どもの数を調べたところ、東京本社0.5人、大阪・北関東地区は1.3〜1.4人、石川は2.0人であることを明らかにした事例がある。
・低成長期こそトップダウンは絶対に必要。ただし、日本歴史の長い大企業は、トップの号令一下、さっと動くような組織になっていない。欧米の組織はトップダウンに慣れているのだが。日本のように(組織の)下の方が自律的に動ける国では、トップが何をやれ、これをやれと言うよりも、情報を徹底的に開示して、下に動き方を考えてもらった方が早い。
とても、納得感のある一冊だった。部長以上向けに参考になると思われる。
追跡!世界キティ旋風のナゾ
土曜日のNHKスペシャル面白かった。(5月17日の深夜に再放送があるそうです)
http://www.nhk.or.jp/special/detail/2012/0512/index.html
製造業に替わる『新・ニッポンブランド』として期待される日本のコンテンツビジネス。しかし、ゲームやファッションなど「文化」は注目されても「商売」には結びつかず、コンテンツ産業の海外輸出額は、国内市場の5%にとどまっている。
そんな中で、世界を相手に躍進を続けているのが、キャラクター・ブランド「ハローキティ」。社会主義国家やイスラム国家、軍事政権下の国まで含め、創業からわずか一代で進出した国と地域は「109」。ライセンスによるビジネスで、営業利益150億円を稼ぎ出している。その成功の秘けつは、戦後日本の消費行動が生んだキャラクターならではの「自由さ」を売りにしたことだった。
さまざまな世界の「壁」に苦しみながら、挑戦を続ける日本コンテンツ産業。「ハローキティ」をはじめ、さまざまな企業の苦闘の様子を追い、『新・ニッポンブランド』が世界で生き残っていくために必要なモノは何かを探っていく。
番組は、平たく言うと…
キティちゃんはミラノに外国人だけのオフィスを作って、そこに一定の範囲内で権限委譲をした。それにより、各国・各文化の嗜好にあったカスタマイズが積極的に行われ、商品バリエーションと販路を拡大。ライセンス生産だから在庫も無くてビジネスとしては大成功。対してディズニーやスヌーピーは統制が強過ぎて「拡がり」が無い。日本のメーカーも統制に拘りすぎずに、もっと自由にさせたら?
というような論調だったように思う。
これに対して、個人的には二つの点で注意が必要だと思った。
一つは、「統制と自由度」は極めて組織論的なアートの領域に属する問題で、言うは易く行うは難いこと。これを字面の響きの良さだけで真似しようとしてもうまく行かないだろうということ。この番組を見た偉い人が「うちも真似しようぜ」という姿が脳裏に浮かんだ・・・。
もう一つは、長期的に見た場合に、ディズニー的なやり方を単純に非難すべきではない、ということ。キャラクターが氾濫するということは、一歩間違うとブランド価値の希薄化に繋がる。たとえば、、、日本の田舎のおじさんがナイキのキャップを被るようになった頃以降、ナイキのブランドは変質した。当然、キティは同じ道をたどらないように、細心の注意は払っているとは思うが。5年後、10年後も見据えないといけない。
二つほど個人的に感じたことを書かせてもらったが、番組としてはとても勉強になった。
特にキティちゃんのチーフデザイナー(3代目)の日本女性、凄いと思った。「赤」→「ピンク化」の決断や、輪郭をぼかす、などビジネス野郎には一見微細にみえる「デザインの力」を痛感した。