あかんやつら 東映京都撮影所血風録/春日太一

 

 

あかんやつら 東映京都撮影所血風録

あかんやつら 東映京都撮影所血風録

 

 

 
TBSラジオのサブカル路線を愛する私は、著者と本書の事はそれらの番組を通じて知っていました。そのため、本書の主題である東映映画については作品もほとんど知らないにも関わらず、本書には興味を持っておりまして、図書館でふと出会ったので借りてきた次第です。
 
読み手である私に本書理解の前提となる作品そのものあるいは人物名に関する知識が欠けているので、十分に楽しめなかった感もありますが、「血風録」というサブタイトルに違わぬように情念に満ちた時代の雰囲気を感じることはできました。本書に出てくるような人々や環境は暑苦し過ぎて、自分は苦手ですが、話として読むのは嫌いじゃないです。
 
時代劇はともかく、映画「仁義なき戦い」くらいはちゃんとみないと行けないなと思いました。
 
仁義なき戦いの、深作欣二監督が、伝統の東映京都撮影所に登場した時のエピソード
 
P.303
東映京都の監督は頭がイイだけではできん。人の信頼を得るだけのパッションが必要なんですわ。必要な能力の九割は統率力やね。ようは人間味や。その最たるものが深作ですよ。みんな最初は『二度とこんなガキとやってられるか』とブーブー言いながら、結局は素晴らしい映画を撮るから、みんなついていくんですわ」(高岩・談)

写真が絶対にうまくなる 構図力養成講座/鈴木知子

 

写真が絶対にうまくなる 構図力養成講座

写真が絶対にうまくなる 構図力養成講座

 

 

 
7年前にデジタル一眼レフカメラを初めて購入以降「写真が上手くなりたい」と思いつつも、一向に知識も技量も上がらない。絞りとかシャッタースピードとか画角くらいは多少はわかるようになったけれど、依然としてそれらを主体的に使いこなせている状態にはない。どうやらあまり自分の得意な領域ではないのかもしれない。
 
しかしながら、今度の夏に割と重要なカメラマン役をしなければならない見込みになってしまい、改めて勉強することが必要になった。本当はスクールにでも行けばいいのだけれど、まずは独学で。
 
この本はとにかく「構図」に特化しており、そこがとても良かった。特に最初の基本構図10の解説はシンプルでいい。そして、そのあとは、ひたすら演習問題が続くという面白い構成。説明も理屈っぽくて自分好み。
 
(メモ)
 
10の基本構図とポイント
 
三分割構図・・・悩んだら三分割構図。水平をしっかりしないと締まりが出ない。主題に視線が集中する構図。
 
黄金分割構図・・・都市や自然など多くの要素がある場合に使いやすい。テーブルフォトでも使える。
 
二分割構図・・・要素を減らして二分割構図にすると落ち着いた雰囲気に。
 
日の丸構図・・・余計な部分を引き算して、シンプルな背景を選ぶ・作る(背景を暗めにするなど)
 
三角・逆三角構図・・・広角レンズで使いやすい。底辺が下の三角構図だと安定。
 
放射構図・・・視線がラインの集まる一点に集中する。なるべく放射ラインを分断しない。広角レンズでローアングルから攻める。
 
曲線・S字構図・・・縦位置の方が決まる。人の体のポーズで作ることもできる。テーブルフォトで被写体が四つ以上ある場合にオススメ。
 
対角構図・・・動く被写体にリズム感が生まれる。テーブルフォトでも使える。
 
シンメトリー構図・・・二分割構図の変形。被写体の力を選ぶ構図。水面(風のない時を狙う)、鏡、映り込みなど。
 
フレーム構図・・・フレームの部分もしっかりとる。ただし、ピントはフレームの先の主題に。
 
その他
 
家族写真は背の高い人を真ん中にして
 
全体に、「主題を決めて引き算する」発想が重要。

マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー/エリザベス・イーダスハイム

 

マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー

マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー

 

 

 
マッキンゼーの中興の祖(というか実質的な創業者)、マービン・バウアーについての評伝。去年あたりから、マッキンゼーの本を改めていくつか読む中で本書が素晴らしい、という情報に接していたので手に取った。結果、「もっと早く読んでおけば良かったなぁ」と後悔してしまう良書だった。
 
最近の日本では、『元マッキンゼーの・・・・』なんていう本が乱立し、こんな記事

マッキンゼー出身の著者が人として浅すぎる件・・・(渡辺龍太) - 注目の記事

まで話題になっている。
 
しかし、本書で描かれているマービン・バウアーの人間性の高さ(勿論多少は、美化もあるだろうけれど)には刮目するばかりであった。
 
  • 株式公開すれば自身が巨万の富を得られたのに、ファームはクローズドであるべき、としてその機会を自ら閉じた。 
  • 最優秀な部下が、ちょっとした倫理違反をした際に、解雇を即断した。(周囲は唖然) 
  • 周囲から慰留されたにもかかわらず、64歳で退任。以降、現場に介入せず。 
  • ただし、80数歳になっても経営幹部会議に招かれるくらいの人望。そしてその会議でファームの収益性に関する議論を聞いていて遠慮がちに一言「プロフェッショナルファームの人間は、どうすれば収入を増やせるかを論じるべきではないと思う。ファームのディレクターやパートナーが論じるべき唯一の議題は、どうすればクライアントに良いサービスを提供できるか、ということだ。より良いサービスを提供できれば収入は増える。だが収入にこだわったらクライアントを失い、結局は収入を失う」 
  • サー・ロデリック・カーネギーの証言「マービンから教わったことの第一は、金儲けばかり考えるな、ということ。第二は、何をするにしても10年後にどうしたいかというビジョンを持って取り掛かること。第三は、新しい可能性につねに心を開いていることだ。」
 
歴史的に見て、この方が、戦略コンサルティング業界を作った、というのは過言ではないのだろうなぁ、と納得できた。
 
ただまあ、その後のマッキンゼー社は、経営陣がインサイダー疑惑で退陣するなど、俗世にまみれていったという事実もあるわけで、そこには無常を感じる。
 
とにかく、コンサルティングやクライアントに奉仕する業務に就いている人の参考として、あるいはリーダーシップ本として、この本は価値がある一冊だった。
 
 

一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教 (集英社新書)/内田樹・中田考

 

 

 

「自分はもう、内田樹*1は卒業か…」と勝手に思っていたのだが、この本で対談している中田考先生の存在を知って本書読んでみたくなった。

 

中田先生(今の肩書きは一イスラム教徒)。イスラム国に飛ぼうとした日本人学生を手引きした黒幕、とマスコミで報じられるわ、ツイッターで「カワユイ、カリフ道」を説いてるわ、灘高東大で学者になったのにそこから出奔してフリーになってるわ、とにかく既存の日本社会からは規格外の存在のようで、気になってしまったのだ。

 

本書、中田先生の展開する、イスラム論、イスラムの実態の部分は非常に面白かった。カリフ制再興を主張する理屈も良くわかった。「ハラール認証は神の大権に対する冒涜だと思う」というあたりは、確かに一神教の原則とすればそうだよなぁ、などと勉強になった。また、中田先生による指摘、「キリスト教政教分離だと言われているが、西欧は厳密な意味で政教分離をしていない*2。それは世俗と宗教の分離であって、国家と教会の分離ではない」という節には「なるほど、こういう観点はイスラム教徒ならではだよな」と思った。

 

そもそも、ガチのイスラム教徒の人が書いたものをしっかり読んだのは(自分も色々な本を読んで来た方だが)初めてかもしれない。そういう意味でも良い読書だった。

 

内田先生は、いつも通り、非常に分かりやすい語り口の中に、数頁に一つ、非常に難解な熟語を混ぜて知性を「ちら見せ」する、内田文体。これ対談だから、あとでそういう風に操作しているのか、本当にこの単語を口頭で話してるのか、そこが気になった。あとは、やはり日本の政権や経済界に対する新自由主義陰謀論を展開しちゃうところがあって、そこもいつも通りだった。

 

あと、どうでもいいことですが、対談の中で「だはは」という笑い声が使われてますが、これはプロインタビュアー吉田豪先生の発明がここまで伝播してきたってことでいいんでしょうか。

 

 

 

 

*1:沢山読ませていただて、勉強もさせてもらったのですが、いつからか、なんか嫌になってきたんですよね。うまく説明できないんですが。

*2:東方教会はしている、という解釈である

グルメの嘘/友里征耶

 

グルメの嘘 (新潮新書)

グルメの嘘 (新潮新書)

 

 

まだ、子どもを持たなかった10年くらい前のころは、そこそこ都内で外食することが好きで*1、その頃よくこの人の論評も参考にしていた。(本書は、気まぐれで図書館にてPick up)

 

友里氏は、ペンネームであり素顔は企業経営者らしい。企業人らしく、本書でも一貫して、料理界に「透明性」「ガバナンス」を求めている。その論理は、企業人である自分も分からないではないのだが、個人経営の料理店にそれを求める事自体、悪いとは言わないが「野暮」だ、とも思う。

 

まあ、友里氏の評論で勉強したことも多いので、悪くは言いたくないですが。

*1:今も嫌いではない、が自分で作る方に圧倒的に興味が言ってしまった

なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略/冨山和彦

 

なぜローカル経済から日本は甦るのか (PHP新書)

なぜローカル経済から日本は甦るのか (PHP新書)

 

 メディアでの評判も高いようだが、私の信頼すべき知人の皆さんも複数が推薦していたので、「これは読まねば!」と思っていたのだが、少々遅くなってしまった。

 

読んでみると確かに、好評がよく分かる。素晴らしい考察だ。いつも思うことだが、頭の良い人の本を読むと、文章を読んでいるだけで気持ちが良くなる。

 

本書はG(グローバル)*1とL(ローカル)*2、という二つの企業モデルを提示することで、(私も含めて)皆が何となく感じている経済政策・経済言説に対するモヤモヤをスッキリと見通すことを可能にしてくれた。モデルの力、フレームワークの力を感じる。

 

私の専門分野は人事だが、「人事の世界でもGを前提とした言説がLに影響を及ぼして結果、ちょっとズレていることがあるよなぁ」とか「商売はGでも人事はLだったりするなぁ」とか「日本の義務教育って基本的にはLの人材を育てる仕組みであって、G人材を育てる仕組みは無いよなぁ」とか色々と思いながら読んだ。この辺りは真剣に整理して、今後の自分の仕事に活かして行く予定。大いに、触発された。

 

 

*1:世界レベルでの競争が不可避で、規模の経済性が支配するタイプの競争。いわばオリンピックゲーム。

*2:立地に縛られ、密度の経済性が支配する競争。いわば県大会。

睡眠のはなし 快眠のためのヒント/内山真



どんな仕事をするにも、健康は重要。具体的には食事と睡眠と運動であり、それらについて科学的な知見を持つことはとても役に立つ。科学的な知見というところが大事で、ネットに溢れる俗説には気をつけなければならない。

本書はしっかりとした科学者が抑制的な筆致で「睡眠」に関して分かっていることを、トピックをコンパクトに区切って教えてくれる。この編集というか構成は多忙で読書時間を続けて長くとれない人には有り難かった。

色々理屈は分かったけれども、睡眠というのは「理屈」で考えすぎるのも良くない。本書を読んで色々睡眠を考えだしたら少し寝付きが悪くなってしまった。