ストーリーとしての競争戦略/楠木建



最近話題の「戦略論」の本。三連休を使って一気に読みました。面白く読む事が出来る戦略論の本としてオススメです。



自分は10年以上戦略論の本を結構読んできているので、率直に言って本書で扱われている概念に「全く目新しい」という部分はあまり無かった。

戦略論の本を余り読んだことのない人には、先行研究のレビューとして読める部分もあると思う。もちろん、単なるレビューではなくて、著者なりの「ひと味」が加えられていてそこが面白い。ポジショニング学派とRBV学派の比較とその関連を論じたあたりなどは、特に読み応えあった。



この本の素晴らしいところはその語り口、文体(VOICE)にある。

こういう内容を扱って、マイケル・ポーターさん、とか、ハーバート*1・サイモンさん、とか、「さんづけ」で語る、あるいは、コリャだめだ(いかりや長介風)とか、軽妙な感じで語った本というのは類書が無いように思う。(あったらすみません)



 内容よりもむしろ「語り口」で革新が起きるというのは、戦略論という分野が成熟期に到達していることの現れなのかもしれない。

 一般論として成熟したジャンルでは、個別的な技術革新よりも、色々なものを総合してコンセプトをくくり直し、分かりやすく魅力的なコミュニケーションでデリバリーするということが大事になると自分は理解しているが、本書自体が戦略論の分野でそうしたことを実践しているようにも思えた。

勝手な類推ながら本書の文体は、若干、今、人気の哲学研究者、内田樹風のVOICEのようにも感じた。こういう語り口を今の時代が求めているのかもしれない。



 あと、本書内で著者がリスペクトしている名著として取り上げられている、『「バカな」と「なるほど」 経営成功のキメ手!』 - 吉原英樹 が読みたい*2けど絶版で中古も入手できないようだ。

*1:自分は第7刷で読んだのですが、注記のところ、ハーバー・サイモンになってます。これは違いますよね…

*2:成功する戦略というのは、実行する前には皆がそんなバカなこと成功するはずがない、と言うが、成功してみると、これは極めて合理的だと褒め称える。事前の非合理と事後の合理、という話。