弱い日本の強い円/佐々木融


弱い日本の強い円 (日経プレミアシリーズ)

弱い日本の強い円 (日経プレミアシリーズ)





自分は為替は専門ではないのだが、仕事で金融業との接点は多いし、個人的な資産防衛の参考にもなりそうなので、勉強のために読んだ。とても良い本だった。



・「ドル円」だけに注目しても為替の本質は分からない。多くの通貨をクロスさせて見る中での相対的な位置づけを考える必要がある、という著者の第一の主張は、確かになるほど、である。


・「むしろ、今、日本にとって注目すべきはドル円ではなく、ウォン円である」という説明には、さらに強烈な「なるほど」感を感じた。232ページのグラフにはビックリ。(ウォン円相場と日経平均の驚くべき連動)


・ドル円だけに過度に注目が集まるのは、日経やNHKといった報道機関の責任も大きい、というのにも同感。


・長期的には「物価の上昇率の差」で決まるというのはオーソドクスながら、「人口が減って国力が衰退しても円安にはならない」「為替介入には意味が無い」といった通説を批判する部分も納得感もって読める。


・株価が上がると(←先行要因)、為替が円安になる、という説明も思い切ったもの。


・書評等で問題にされているようだが、著者の「日本のデフレ」の評価はかなり明確にユニークである。101〜106ページあたりの記述は、とても興味深いが、反対の意見も多いので、よく考えてみたい。

P105「インフレ率が大きく上昇するリスクをテイクするくらいなら、1%のデフレが続いている方が一般国民は幸せである。」 


・決して著者にそのような意図は無かったとしても、論旨は全体的に「日銀擁護」とも読めなくもなく、本書への批判があるとしたら、そのあたりにあるのだろうけれど、説明は明解だし、勉強になることの多い本だった。



著者は本書再末尾の、P247で、過去の名FRB議長の言葉を紹介している。


中央銀行の役割は、パーティーが盛り上がったときに、パンチボウル(お酒)を取り上げることが仕事だったが、今は、パーティー中にもせっせとお酒を運び、パーティーが終わったら、迎え酒を運んでいる」


この言葉を紹介した上で、著者は「全ての通貨の暴落」を危惧し、金価格の暴騰にその端緒を見ている。これは僕も本当にそう思う。現在進行形の事態であり、それを見越した資産戦略は必要だと思う。あと10年くらいしたら、「貨幣・通貨」の価値というのはすごくダイリューションしていて、全くおかしくない。



なお、本書とはやや違う意見を持つらしい「円高の正体」というドイツ証券のシニアアナリストの書いた本も評判なので、次はこれを読む予定。