トウ小平秘録/伊藤正

〓小平秘録〈上〉 (文春文庫)

〓小平秘録〈上〉 (文春文庫)


最近、個人的な趣味?として中国共産党に興味を持った。

時事的に反日が話題、指導部交代の共産党大会が話題、それに、人事コンサル的には共産党の組織人事運営は興味深い。


昔、「毛沢東秘録」という本を読んだことがあった。細部は忘れたが「とにかく毛沢東怖い」という印象が残っている。今回は、それと同じタイトルを持つ「蠟小平秘録」を読むことにした。4日間ほどでこの長い本を読み終えたが、とても面白かったし、日中関係や今後の中国分析に役立つ知識を得ることができてとても良かった。




第一部は、第二次天安門事件。敢えて「蠟小平のキャリア末期の汚点」とされる事件から本書は始まる。しかし、この事件は、今の共産党政権の基本思想の原点的なものだというのが、今の視点から読むと良く分かる。この第一部の緊迫感、民主化リーダー達の熱い思い、逡巡する人民解放軍幹部、などいきなり本書に引き込まれてしまった。



第二部は、南巡講話。「共産原理主義はダメだ」として、改革・解放を訴えた有名な逸話であるが、これは一旦引退した訒小平が、また自分の方に流れを引き寄せるために80歳代で仕掛けたパフォーマンスという性格もある。80歳代でここまでやるか、という点で衝撃。



第三部は、文化大革命訒小平は3回失脚した、とは知っていたが、なんと2回目失脚したときが60歳過ぎ、3回目失脚に至っては70歳くらい、ということは知らず驚いた。結局、毛沢東が亡くなったことと、訒小平の実務掌握力&人望&経験(抗日戦争の英雄である)というところが効いて、復活している。あとがきによれば、「毛沢東秘録」との重複を避けることに配慮したらしく、文革自体については割とライトな記述。


第四部は、毛沢東死後、失脚から復活し、実権を掌握するまで。実権掌握時、訒小平は74歳。毛沢東が死んで、華国鋒が四人組を逮捕→そこから訒小平が復活へ、というあたりだが、このあたりのロジックが正直良く分からない。軍部の支持を得ていたというのがポイントだということは分かったし、訒小平自身の立ち回りも凄いのだろう。



第五部は、実権掌握後も続く、共産原理主義勢力(文革派)との戦い。



第六部は、訒小平死後の中国についての総括。



新聞に連載されていた、と言う事で文章が読みやすい。

そして文中には、今話題の現役政治家、習金平や薄熙来の父上が「八大長老の一人」とかして出てくるのでそれも興味深い。




ざっくり自分なりにまとめると、


訒小平は中国を経済面で「改革・解放」に舵を切った立役者である。彼がこう考えた理由は「中国はいくらなんでも貧乏過ぎる。これを豊かにすることが絶対的真理」というものだった。


・こうした思想は1970年代から彼は持っていたが、文化大革命に代表される共産原理主義のトップ、毛沢東とそのシンパに、それを理由に攻撃され続け、何度も失脚する。


訒小平は経済は開放したが「共産党一党独裁」を揺るがす思想の解放は絶対に認めない、という立場だった。この路線は今も続いている。