人間における勝負の研究 さわやかに勝ちたい人へ /米長邦雄



昨年末に亡くなった棋士米長邦雄氏の「伝説的名著」(注:20年以上前の本)と色んなところで評判だったので、読んでみたら本当に名著だった。


本書で一番有名なのは勝負における「米長理論」とも呼ばれるテーゼ。


「自分にとっては勝っても負けても自分の評価処遇には影響を及ぼさない勝負、でも相手にとっては生死のかかった重大な一番、こういう試合こそ自分が本気で勝ちにいかないといけない」


本書で実際の論を確認できた。なぜこういう事を言うのか、確かな理屈があった。





将棋の棋士の世界というのは想像を絶する天才達が実力だけで孤独な勝負を延々と続ける世界。

そこでトップをとった人だけあって、言ってることが上記の他にもイチイチ面白すぎる。勝負論、運、カン、教育論、男らしさ論、仕事論、人生の「貸し借り」論…。編集者(ライターさん)が良いのだろう、米長氏が話しているようなグルーヴ感の中、パンチラインが続出。


今で言えば、吉田豪氏がインタビューしたような感じである。(というか、吉田豪にインタビューして欲しかったなぁ)

(線を引いたところの、ほんの一部)





なぜ冒頭からこんな話をするのかといいますと、勝負事にせよ、一般の仕事にせよ、人間が何かをする場合に、その軸になっているのは、やはり、その人の人生観だと思うからです。(P20)


人間にとって大切なものは、努力とか根性とか教養とか色々あります。しかし、一番大切なものはカンだ、と私は思っています。カンというのは、努力、知識、体験といった貴重なもののエキスだからです。その人の持っているすべてを絞ったエキスです。(p107)


「弱い者は結論を先に出したがる」というのは勝負の金言であり鉄則です。(p172)


最終的に勝負は実力で決まりますが、人気とか、応援ムードとかも、勝負に影響を与えないとは言い切れません。奇跡の優勝とか、そういうハプニングには、ある種のムードがよくからんでいるものです。
私の場合、人気とかを気にするより、私が勝っても少しも不思議ではない、当然だと素直に受け入れてもらうような流れ、雰囲気を作るように努力しているつもりです。(p206)


本書の90%は「凄く勉強になった。面白い。自分の人生訓にも採用したい」という感じなのだが、女性に関する論は、現代の倫理感では「アウト」的*1なところも多かったのだが、それもまた面白いというか魅力に感じてしまうような米長先生なのであった。


文庫で手軽だし、興味ある方はぜひ直接お読みいただきたい。 とにかく「米長節」は面白かった。

*1:ツキを持っていく女性と付き合ってはいけない。そういう女は多分胎教が悪かった、とか…女性とやりたければ、女子大生と契約してもトルコ嬢でもいいんだ!とか米長先生豪快です。