リンカーン(2013)/スティーブン・スピルバーグ監督

多少ネタばれもありながら、書いてますのでよろしくお願いします。



事前に情報が出ていた通り、リーンカンの伝記というよりは、ある特定の比較的マイナーなトピックを取り上げての、スピルバーグ流の「民主主義論」「リーダー論」という映画だった。スピルバーグといえばユダヤ系で民主党支持の巨匠であるから、当然に彼の主張が込められているのだろう。


自分なりにそれを表現すれば、「真の政治家(リーダー)は自分の好きな極論を放言してれば済む、ってもんじゃない*1。理想を実現するためには、ビジョンが明確で弁舌さわやかなことも大事だが、裏工作も要り、妥協も要り、もっと言えば武力も要る。」ということだろう。

かなり終盤の方で敵方(南軍)の幹部から「あなたは民主主義で勝ったわけじゃない、武力があったからだ」というセリフがあったけれど、自分的にはこの一言が全体の厚みを増したと思う。

それから「磁針と北」の喩え話も良かった。測量士だったリンカーンは理想に固執するある政治家に対して語る。(セリフは私のうろ覚え)「磁針は北を教えてくれる。目指すべきところを教えてくれる。しかし、そこに行き着くまでに何があるか、どんな地形でどんな障害があるかは教えてくれない。行き着く先だけが分かっていたって意味が無い。真っ直ぐに行ける筈がないのだから。重要なのは、蛇行しながらでも進んでいくことだ。いきなり目的地につける筈がない」…なかなか含蓄のある言葉だった。


演出は手堅い。娯楽性とカタルシスは抑え目。ただし、主演のダニエル・デイ・ルイスは(毎度のことながら)神がかり的な演技で、後半はリンカーン本人にしか見えない。


ものすごく大事なシーンで、でも個人的に笑えたのは、事前工作にも関わらず賛成票が2票足りない、という会議のくだり。リンカーンが部下に檄を飛ばすのだが、これが会社でCEOか営業部長「あと、2件、目標に対して受注が足りない。お前ら、なんとか受注してこい!」とがなる光景に見えて仕方なかった。ここ、映画全体でのハイライトになるような良いシーンなので、ぜひ見ていただきたいのですが。。

*1:どこの国とはいわず、そんな政治家(リーダー)が増えているのではないですか?