64(ロクヨン)/横山秀夫

64(ロクヨン)

64(ロクヨン)


警察職員二十六万人、それぞれに持ち場があります。刑事など一握り。大半は光の当たらない縁の下の仕事です。神の手は持っていない。それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持をもって職務を果たさねば、こんなにも巨大な組織が回っていくはずがない。D県警は最大の危機に瀕する。警察小説の真髄が、人生の本質が、ここにある。

本書は、本屋大賞百田尚樹氏に続く2位であり、とても面白い、という評判を聞いていた。百田尚樹氏の本も読みたいのだが、彼の本はもう留まるところを知らないくらいに売れているようだし、判官びいき的な気持ちもあったのか、横山氏を応援しよう、と言う気持ちで、多少高い値段の本ではあるが、Kindleで購入。


結論としては、大傑作だと思う。全く予想していなかったのだが、組織の力学、個人のキャリア、仕事への矜持など、組織人事分野を生業をする自分にとっても大いに関係ある内容だった。もともと自分はこうしたテーマを描く警察小説は大好きで、今野敏氏、佐々木譲氏などのファンでもあるが、本書は相当に骨太で熱く、紹介文にある「警察小説の真髄」という看板に偽りは無い。


本書の中には、色々な争いがある。中には読む人によって「それって、所詮、コップの中の嵐(あらし)じゃないの?」「しょーもないメンツでそんなに熱くなること?」と思われるものも、あるかもしれない。でも、組織という閉鎖空間では、熱くなる事があるのだし、そこにリアリティを与えるだけの筆力がこの著者にはある。



本書は著者7年ぶりの新刊だったそうだ。


読んでいる時から、こんなに高い完成度*1と情念をぶつけた小説を書いていたら著者は体と精神(メンタル)が持たないだろうなぁ、と思った。実際に本書は一旦発売日が決まっていたものを、著者が「完成度が低いので延期したい」としてから数年間格闘した結果の産物*2とのことである。


文庫化を待たずに購入しても悔いのない一冊だと思う。

*1:読んでいて、「この作者、完璧主義なんだろうなぁ」というのが分かる。他にこういうオーラを感じるのは原りょう先生。こちらも寡作の巨匠。

*2:著者インタビューが熱い