ブラックスワンの経営学 通説をくつがえした世界最優秀ケーススタディ/井上達彦

 

 

 
今年、私は、慶応大学ビジネススクールの講座で、ケースメソッドについて勉強する機会に恵まれた。そこでの学習により、ケースメソッドというのは、一つの「教育手法(思想)」であるということが良くわかった。本書は、その「ケースメソッド」ではなくて、「ケーススタディ」という研究手法・方法論について、取り上げた本だ。(余談ながら、ケースメソッドケーススタディの違いがしっかり分かっている人はとても限られていると思う。)
 
そもそもが、この「経営学の方法論」というのは、経営学者が論じる分野としては地雷満載のフィールドだろう。役者自身が演技論を/映画監督自身が映画論を語るような難しさではないかと思う。そこへ切り込みながらも、平易な文章と明快な論理で語り、かつ最新の知見を(特定の立ち位置を意識させないという意味で)フラットな視点で紹介してくれており、非常に勉強になった。
 
私の企業実務・コンサル実務・教育経験を通じて思うことだが、とにかくみんな「事例(ケース)」が大好きだ。その割に、ただ一つの事例を聞いて・考えて、それで何の意味を受け取るの?ということについて深くお考えになっていない人が殆どのようにも思う。皮肉に聞こえたら申し訳ない。ただ、事例で学ぶ、事例で研究することが好きな人は、本当は本書を読むくらいに一度は突き詰めて考えることが必要ではないか。ただし、本書は、実務家が役立てることを意識して書かれているが、実務書とまでは言えず研究書と実務書の間で研究書寄りの位置づけだと思う。簡単な本ではない。そのため「これくらい読みなさいよ、必読!」とまで言うのは憚られる。その辺が難しい。
 
 
 
ブラックスワン経営学」というタイトルについて。本書を最初に知ったときから「なんでこんなタイトルにしただろう・・」と思ったのだが、本書を読み終わった後ではその意味が良く分かるし、それなりに良いタイトルだとも思うけれど、それでもやはりこのせっかくの良書の「読者の間口を狭めているのでは?」という印象は拭えない。

ではお前だったら本書になんとタイトルをつける?と言われると「事例研究の意義 一つの事例をどう調べるか そこから何を導くか」あるいは「事例研究の意義 一流研究者はなぜ、どうやって事例研究を行うのか」とかとても味気ないものしか浮かんでこない…。対案のない批判になってしまった。