データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則/矢野和男

 

組織人事関連分野で仕事をしている人々の間で話題になっている本。ようやく読めた。
 
自分なりに本書にキャッチコピーをつけるとすると、核心的なことを革新的なアプローチによって実証している本、となる。
 
 
革新的なアプローチとはウェアラブルセンサーによる長期・大量の記録である。これにより、活動量や、誰と誰が会話をしているか、という関係、果ては会話をしているときの感情(体の動きに現れる)までが分かるという。
 
 
これからもこの分野(ヒューマン・ビックデータ)の領域の事を良く勉強していきたいと思った。
 
以下自分用に学びになった点をメモしておく。
 
 
第一章より
 
人間の身体運動を記録すると、(正規分布ではなく)U分布が現れる。これはやりとりの繰り返し、によってもたらされる。
 
人間にはそれぞれに「活動予算」がある。帯域(運動強度)毎の活動予算をちょうど良く使うのが一番健康的でサステイナブルである。
 
第二章より
 
仕事ができる人→成功する→幸せ、なのではない。行動する→幸せ→仕事ができる、という因果が実際である。幸せな人は動きが多くなる。
 
コールセンターでの実証実験によれば、休憩時間の会話の活発さが、受注率と極めて高い関係を示した。コールセンターの仕事は個人プレーなのに、である。
 
身体運動は集団の中で、伝染する。(例:あくび)従って、ハピネスは伝染すると言える。(p91)
 
社員の身体運動の連鎖による活発度上昇→社員のハピネス・社員満足度の向上→高い生産性・収益性、とう因果関係が成り立っている。(p97)
 
こうして考えると、ITや電子メールの発達が組織に負の影響をもたらしている可能性が高いことや、昔の「企業内運動会」の効用も実証的なものとして感じられる。
 
第三章より
 
組織内での人脈(ソーシャルグラフ)において、大事なのは自分から2ステップで到達できる人。1ステップでも3ステップでもなく、2ステップ。従って、必ずしも1ステップで行ける知り合いの数を増やす必要はない。
 
ウェアラブルセンサを用いた実験では、組織の中のソーシャルグラフの中心に居る人は、必ずしも職位の高い人ではない。前述の法則によれば、新しく着任したリーダーは、ソーシャルグラフの中心に居る人とのコミュニケーンを増やせば、2ステップでの到達者の質が上がるのでこれを目指すべき。
 
三者のソーシャルグラフ(人間関係)は、三角形にすることが重要。1対1の関係は脆弱である。知り合い同士、部下同士をつなぐことには大きな効果がある。リーダーは必ずしも自分の直接接点をつくらなくても、組織の中に三角形を沢山増やす行動をすることで、大きな情報を手にすることができる。
 
上司と部下の間での会話は双方向である事が重要。組織内でかわされている会話の質は収益にも関係している。会話の質は、センサーで計れる。ある上司と部下の間では会話の質が低かった。この例では、挑戦的な目標を二人が共有していないことが原因だった。
 
第四章
 
ビックデータで儲けるための3原則(p201より引用)
 
第1の原則 向上すべき業績(アウトカム)を明確にする
第2の原則 向上すべき業績に関係するデータをヒトモノカネに広く収集する
第3の原則 仮説に頼らず、コンピュータに業績向上策をデータから逆推定させる
 
第3法則がとても重要。仮説は人間が作るべき、という圧力は強いが、この固定観念を捨てられるかが、プロジェクトの成否を分ける。
 
(店舗でのウェアラブルセンサとビックデータを用いた実験より)
コンピューターがあるポイントに従業員を立たせると売上があがる、という指摘を出して来て、それが実際に売上が15%上がった。その場所自体に、人間が理解できる意味は無かった。しかし、これにより、接客時間が全般に増えていた。さらに興味深いのは、接客をされた客の売上が伸びたわけではなく、接客されていない顧客の売上が伸びた。
 
「接客は、顧客に知りたい情報を与えるという直接の効果よりも、ほかの顧客と従業員が活発にやり取りしているのを見ることでにぎわいを感じる、という間接的な効果の方が、売上に大きな影響があるということになる。(p215)」
 
第2章で紹介したように、人との共感や行動の積極性は、人の「幸せ」を決めるものである。共感できたり積極的であったりすると、その先に幸せが得られやすい、というのではない。共感できたり積極的に行動できたりする事自体が、人のハピネスの正体なのだ。従って、ビックデータを使って儲けを実現すると、見えないところで人との「共感」や「積極性」や「ハピネス」が得られたことになる。(P216)
 
(略)つまり、大量のデータを活用して自己の利益を追求するとき、前記の古典的な「見えざる手」を超える、新たな「データの見えざる手」の導きが産まれるのだ。ビックデータを使って自己の利益を追求すればするほど、見えないところで「データの見えざる手」によって社会に豊かさが産み出される。これにより、人の「共感」や「ハピネス」などこれまで経済価値とは直接関係なかったことが経済価値と結びつく。(P217)