フラッシュ・ボイーズ 10億分の1秒の男たち/マイケル・ルイス

 

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

 

これは凄い本だ!
2008年のリーマン・ショック以降、ウォール・ストリートは規制が強化され健全になった、と信じられてきたが、その規制と民主化によって、逆に市場は本当のイカサマ市場になってしまった――その事実を白日の元にさらした衝撃のノンフィクション。取引所も、SECも大手投資銀行もすべてグル。簒奪されるのは、善良な一般投資家だ!
証券市場の民主化によってニューヨーク証券取引所NASDAQ以外の証券取引所が乱立するようになった2009年あたりから、ディーラーたちは不思議な現象に悩まされるようになった。コンピュータスクリーンが映し出す各証券市場の売値と買値で取引しようとすると、ふっと売り物や買い物が消えてしまうのだ。その値が消えて、買う場合だったら必ずそれより高い値で、売る場合だったらそれより低い値で取引が成立してしまう。ウォール・ストリートの二軍投資銀行に務めるブラッド・カツヤマは単身調査に乗り出す。するとそこには、彼らの注文を10億分の1秒の差で先回りする超高速取引業者「フラッシュ・ボーイズ」の姿があった……。 

 

やっと読めた、マイケル・ルイスの話題の新刊。

 

本書内で言及されていることだが、市場を監督する側がどれだけ精緻な規制を作っても、その間隙を縫って利益を得ようとする人々は、歴史的に必ず出続けてきているという。

 

それが現代だとどうなるか。株取引とソフトウェアプログラムと通信(ケーブルやルーター)のそれぞれが高度に発達した結果、専門家の細分化が進み、全体像をつかむのが非常に困難になった。その間隙をついて市場から利益を掠め取ることが横行している。これがフラッシュボーイズだ。

 

ただ、こういう人々が市場の進化に寄与しているとも言えるわけで、そこが難しいところだ。

 

ものごとがうまくいかない原因は、ドンの考えによると、意外でもなければ複雑でもなかった。それは人間の本性とインセンティブの力に関係があるという

 

今年お会いしたある知識人から「勉強をするなら古典もいいけれども、世界の最先端で何が起こっているかについてを勉強すべきだ」と言われた。

 

本書を読みながら、この言葉を思い出した。アメリカの投資銀行界の先端で、業界の中の人々も知らない中で何が起こっていたのか(今も起こっているのか)を解き明かした本書。それを読みながら、確かに本質的なことを沢山考えることになる。人間の業とは何か、公正とは何か、市場とは何か。現実には奇麗ごとでないことにまみれているが、少しばかりの希望が混ざっているのが良い。