ビジネスをつくる仕事/小林敬幸



新規事業立ち上げがメインの話題。というよりも、「不確実で流動的な現在の環境下でビジネスの成果を出すためにはどうすべきか」を語った本。図書館で借りたのでスピード読書してしまったが、自分がこうした案件に関与する際に再度精読したいと思った。


ご本人はあとがきで、「飲み屋で受けた話を中心にした」と謙遜されているが、膨大な経験と読書量に支えられた極めてクレバーな著述である。と、同時に、「熟練の兄貴」が語りかけてくれているような親しみも感じられる名著だと思った。

私が付箋を貼った*1ところ。


国際的に活躍しているビジネスマンは、国籍人種問わず、契約書以外の「貸し借り」が分かる人が多い。


(人を口説く)企画書や演説は「ポルノ」のようであるべし。(この後、「ポルノ調」文章の具体的な作法が列挙されるが、これ素晴らしい。自分など実務的な美文を心掛け過ぎた、と反省。。)


嫌な仕事は逃げると追いかけてくる。(略)また、撤退戦をするときは後方の味方に要注意だ。


(自分的にこれはヤバイと思う案件を、直接避難せずに)穏便に案件を止めたければ、会議の参加者を増やせば良い。


日本では確率的発想を取り入れるのを科学的でない、とか、不真面目であると否定的に考える風潮があって、それが社会の弱点になっていると思う。


具体的にどういういいことが起こるか分からないことでも、将来必ず役に立つということに、時間や手間をかけておくことはとても大切。(計画された偶発性理論)


ホンイツ戦略よりもメンタンピン戦略。(この洞察、すばらしい)


成熟時代には「継続の利益」を取れるビジネスであることが極めて大事。


「澄んだキャッシュ」のビジネス。「濁ったキャッシュ」のビジネス。


徹底的に、現場で顧客(消費者)に聞くこと。そこに答えがある。コンサルタントや統計データにはない。ただし、意思決定者の奥さんのコメントはn=1のサンプルでしかないのに、1000くらいのウェイトで意思決定に考慮してしまい失敗するケースがあるので注意。


自分の会社の意思決定力学くらいわからないで、ビジネスなんて出来るはずがない。外に対する交渉力は内に対する交渉力に比例する。


有価証券報告書に書かれている会社の経営概況や将来計画、それに時価総額の推移、これをまず押さえること。そこにその会社の悩みが集約されている。


私はいつも人災は「人事災害」だと考えている。世の中を見渡せば、「この人にこういう環境でこんな事をさせれば、そりゃこうなるわなぁ」ということがほとんどだからである。


新しいビジネスを作るには、笑いのある組織がふさわしい。


器の大きさとは、自分ならしないことをする他人を肯定的に理解することである。


しかったり、褒めたりは、劇薬にもなるので慎重にすべきだが、「依頼の周辺情報」だけは伝えても伝えすぎることはない。

第8章の社会との対話、という章に書いてあることは感動的でもあった。日本のサラリーマンは偉大なるサイレントマジョリティ、と語られる後書きも素晴らしく思わず「ブラボー」と心の中でつぶやいてしまった。

*1:図書館に返すときには外します