独裁力/木谷哲夫



著者はマッキンゼー出身だが、(多分珍しいことに)学問的バックグラウンドは政治学だそうで、この事がこの本に類書とはちょっと違う面白さを加えている。

本書の中核にある「環境激変期には、権限の集中をしなければ生き残れない」というテーゼは、経営学(組織論)でも良く言われてきたことだ。また、そもそも組織論の元祖はマックス・ウェーバーなわけで、ある意味では「権力」というのは組織論にとって伝統的な議論ではあるのだが、ここまで「トップの権力基盤」にこだわった記述の本は珍しい。加えて、ビジネス事例、歴史的事例を縦横にひいた記述は、(僕のように関心がゼネラルな者にとっては特に)面白かった。特に個人的に興味を持っている「毛沢東」や「中国共産党」を組織分析の事例*1として使っている点は共感?した。あれらは、組織や経営にとっての示唆が非常に大きい。

また、本書で指摘されている「日本の権力の中空構造」については、社会学歴史学では既に嫌というほど論じられてきている。著者は最終章で「こうした日本の土壌・体質を変えて行くべきだ」というメッセージを発している。しかし、僕は歴史的に分析したものを沢山読んでしまったせいなのか、日本の土壌・体質が変革ができるかという点については、かなり悲観的である。(船橋洋一も本書の木谷さんも批判していた、国会事故調の黒川報告書の立場に近い。)敗北主義なのかもしれないが。

一方で、「「権力」というものをネガティブにとらえ、距離を置く事がかっこいい、としていてはダメだ。これをシビアに分析し、エンジニアリングしなければならない。」という主張には全く同感だ。(本書では言及されていなかったが)日本にこういう空気が蔓延しているのは、戦後の教育の影響もあるのではないかと個人的には睨んでいる。

知的にインスパイアされる部分の多い本だった。

*1:もっと、「大躍進」とか「文化大革命」とか「四人組」の事例や共産党の人事管理についても触れてくれても良かったのに・・とすら思った。というか、命がけの権力闘争の勉強をしたければ、これらについての文献を読むべきだろう。個人的には結構興味があって色々読んだ結果、日本の会社の権力闘争なんてこれらにくらべりゃたかがしれている、という心境になった。