仕事道楽 スタジオジブリの現場/鈴木敏夫



宮崎駿高畑勲徳間康快・(と鈴木敏夫)といった異能の人々の豪放磊落な活躍話。非常に面白かった。これらの人々は吉田豪のインタビューを受けることは無さそうな気がするので、貴重な記録だろう。別に特段のジブリファンで無い自分でも楽しく読めた。


・自分よりも上の人にどのように相槌を打てるか。教養の共有の程度は相槌の打ち方に現れる。(p29)

スタジオジブリは「熱風」という意味だが、設立時は「日本のアニメーション界に旋風を起こそう」という気持ちでつけた。

・プロデューサーとは、結局言葉をどう使いこなすかという仕事なんですね。映画づくりに関わるさまざまな分野の人たちに伝えるべきことを伝え、映画を観てくれる人たちに向けた言葉を編み出す。全て言葉なんです。(P160)


ジブリアニメの真骨頂は「表現」にある。ストーリーではない。


引用


額面通りには受け取れない言葉だが、この奇才二人とこれだけ付き合える鈴木氏も相当な奇才。

ある人の表現ですが、宮さんはエンターテイナー、高畑さんはアーティストという違うがあるという。そうかもしれません。でも、その違い以上に重要なのは、二人ともある種の理想主義者だということです。その理想主義者二人とずっとやってこれたのは、僕が現実主義者だったからだと思いますね。僕はいつも割り切ってクールに処してきたから、長きにわたっていっしょにやれた。高畑さんから言われたことがありますよ。「生涯会ったいろいろな人のうちで、鈴木さんが一番クールだ」と。(p241)


経営者としてのこの「戦略」というか「矜持」には感銘を受けた。

ちなみに付言すると、関連事業を増やして行く方向での解決は嫌でした。たとえば、キャラクターを商品化して関連グッズを売る、という話はやまほど来ましたよ。その方向で拡大路線をとると、本当に「商売」になってしまいます。何より作品を作ることが中心の会社であり、腕のいい町工場でなければならない。変質してしまったら、何のために会社を立ち上げたのかわからなくなってしまう。だからむしろ、グッズに関しては一定以上の売上にならないように注意していました。(p243)


そして、プロデューサーの鈴木敏夫の真骨頂はこれだと思う。2013年に「風立ちぬ」と「かぐや姫の物語」の二本をプロデュースしての感想。

二人にはとことん好きなものを作ってもらう、ぼくはそのことに徹しました。お金も用意したし、期間も用意しました。ぼくとしてはこれで、宮さんにも高畑さんにもお世話になったけれど、借りは返したかなという気分です。
あまりお金のことは言いたくないけど、二本で100億円ですからね。前代未聞なんですよ。さすがに関係各社もみんな青くなって、「回収はどうなるんですか?」と訊いてきました。そんなこと知ったこっちゃない、宮さんも高畑さんも思いの丈を全て注ぎ込んで作った作品なんだ、おまえら世話になっただろうが、というのがぼくの内心の声です。(P237)

結局、2014年公開の「マーニー」を見に行きたくなってしまった。鈴木敏夫の術中にはまっている私。