横道世之介/吉田修一

 

横道世之介 (文春文庫)

横道世之介 (文春文庫)

 

 

 
吉田修一芥川賞作を月刊文芸春秋で読んで以来、有名な作品は読んできているが、作風や主題が結構変わる作家さんだ。本作も本作用に文体を変えてきたりしていて、構成の妙もなかなかで、すごい力量の作家なのだなぁと思った。
 
加えて技巧の面でもう一つ思ったのは、本作では作家が「書いたこと」と「書かなかったこと」の差が明確だ。そこに作家がこの小説で何を表現したいのか、という意志を汲み取るべきだろう。たとえば、性的なシーンは場面はあっても描写しない、とか、登場人物の行く末をぶつっと切る、とか、このあたりはかなり意図的なものだと思う。
 
なお、本書を読むのは個人的に特別だった。若干、世之介と似たような奴と18歳、大学最初の一年間を過ごした時の事が思い出された。本書は、あのフワフワした1年間の独特の空気感を思い出させてくれた。そして彼は1年前に38歳で突然死んだ。なにか他人事とは思えない縁を感じる小説だった。