HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか/ベン・ホロウィッツ

  

HARD THINGS

HARD THINGS

 

日本版のAmazonレビューにならぶ好意的なレビューの内容たちと同じく、面白い本だと思った。CEOの本音、特にスタートアップ企業のCEOの本音をここまで赤裸々に書いた本はなかなか読んだことがない*1。CEOの気持ちとはどのようなものなのかを真剣に知りたいという人、にとってはかなり面白く読めるのではないか。

 

戦略・組織作り・リーダーシップ・採用への言及は当然に多く、それは学者やコンサルタントが語るのとは違う「CEO」目線に徹しており、僕にとっては刺激を受けるフレーズが多かった。Kindleで読んだのだが、沢山ハイライト保存したので、もう一度じっくり復習したい。

あとこの著者はインテルの伝説的経営者「アンディ・グローブ」を非常に高く評価してた。アンディ・グローブの本も読書リストに追加しよう。

 

 

マネジメントについての自己啓発書を読むたびに、私は「なるほど。しかし、本当に難しいのはそこじゃないんだ」と感じ続けてきた。 本当に難しいのは、大きく大胆な目標を設定することではない。本当に難しいのは、大きな目標を達成しそこなったときに社員をレイオフ(解雇)することだ。本当に難しいのは、優秀な人々を採用することではない。本当に難しいのは、その優秀な人々が既得権にあぐらをかいて、不当な要求をし始めたときに対処することだ。

 

 

被害者意識を持つな。 困難は、おそらくすべてあなたの責任だろう。人を雇ったのも、決断したのもあなただ。あなたは、リスクがあることを知っていた。誰でも過ちを犯す。どのCEOも、無数の過ちを犯す。自分を評価して、「不可」を付けたところで慰めにもならない。

 

長所ではなく、短所のなさを理由に採用した。 多数決の採用プロセスにありがちなケースだ。採用グループは、候補者の弱点はよく見つけるが、世界に通用する実力者が欲しいとCEOが考える分野には、重きを置かない。その結果、明らかな弱点こそないが、最高であってほしい分野でパッとしない幹部を雇うことになる。必要とされる分野で世界に通用する強味を持っていなければ、世界に通用する会社にはなれない。

 

私は初めてマネジャーになったとき、教育について複雑な感情を抱いていた。論理的には、ハイテク企業のための教育には意味がある。しかし、かつて自分が受けた社員教育はちっとも面白くなかった。講義は会社のビジネスを理解していない外部業者によって教えられ、見当外れな内容ばかりだった。そして私は、アンディ・グローブの古典的経営書『インテル経営の秘密』(早川書房)の第16章「なぜ教育はボスの仕事なのか」を読み、この本が私のキャリアを変えた。「多くのマネジャーは、社員教育を他人の仕事と考えているふしがある。しかし私は、マネジャー自身が教育すべきだと固く信じている」とグローブは書いている

 

教育は、早い話が、マネジャーにできるもっとも効果的な作業のひとつだ。自分の部下たちに全4回の講義を受けさせることを考えてほしい。1時間の講義に3時間の準備が必要だとする──計12時間の作業になる。クラスには生徒が10人いるとしよう。   来年彼らは合計約2万時間、会社のために働くことになる。あなたの教育によって部下たちの業績が1パーセント向上するなら、あなたの12時間によって、会社は200時間相当の利益を得ることになる

 

今日のスタートアップは、ありとあらゆる方法でライバルと差別化を図らねばならない。その中にはすばらしい特長もあれば奇抜な思いつきもあるが、それらの大部分は企業文化を形づくるのには役に立たない。休憩時間にヨガができる設備があれば、ヨガの好きな社員は喜ぶだろう。ヨガの好きな社員同士の連帯感を高める効果もあるかもしれない。しかし、そういうものは文化ではない。こういうものは長期にわたって会社のビジネスをコアとなって支えるような価値を生み出しはしない。会社が実現しようとしている価値に直接の関連を持たないからだ。

 

CEOとしての私の体験からして、もっとも困難な決断は知性よりも勇気を必要とした。CEOとしての私の体験からして、もっとも困難な決断は知性よりも勇気を必要とした。

 

アンディ・グローブは、CEOの経営能力という点で常に私が理想とするモデルだ。アンディ・グローブは電気工学で博士号を取得し、世界で最高の経営書の一冊『インテル経営の秘密』を書いた。彼はこの本を書いたあとも、営々として経営能力に磨きをかけ、CEOとしてのキャリアの全期間を通じてインテルの幹部を対象としたクラスでマネジメントを講義した。グローブはもう一冊の著作、『インテル戦略転換』(七賢出版)でメモリービジネスから撤退してマイクロプロセッサー・ビジネスへインテルを導いた劇的な過渡期を詳しく語っている。

 

コンサルタントが書く経営書のほとんどは、成功した企業の平時の経営スタイルの研究を基にしていることに注意しなければならない。  そのためこうした経営書で説かれる例のほとんどは、平時のCEOにしか適用できない。実際、アンディ・グローブの著書を唯一の例外として、グローブやジョブズのような戦時のCEOの経営スタイルを分析した経営書を私は読んだことがない。
 
CEOという職はボクシングと同様、数多くの「不自然な動作」を必要とする。進化論的な見地からは人が周囲に好かれたいと考えるのは自然だ。周囲に好かれていることは生存競争で生き延びるチャンスを増やすことにつながる。しかし良きCEOであろうとするなら、つまり長期的に人々の支持を得ようとするなら、時には短期的に人々を怒らせるような行動を取らねばならない。つまり不自然な行動を必要とする。もっとも初歩的なCEOのスキルでさえ、当初は不自然に感じられるものだ。たとえば友達がジョークを言ったとする。普通であれば笑っているだけでよいが、CEOとして部下のジョークのパフォーマンスまで評価しなければならないとしたら、ずいぶん奇妙な経験となるだろう。CEOはまずいジョークを言った部下に、「きみのジョークは笑えなかったぞ。潜在的には面白いジョークだが、前振りがお粗末な上にオチを完全にしくじった。これから細部を練り直して十分練習してきたまえ。その上で明日もう一度聞こう」などと言わねばならないのだ。

 

 

 

*1:敢えて類書をということであれば、南場さんの「不恰好経営」に近いかな。