松下幸之助に学ぶ経営学/加護野忠男



加護野先生といえば言わずと知れた経営学会の重鎮。


本書は、松下そのものを論じた本というよりも、「松下幸之助松下電器」を題材とした、「加護野流の日本的経営論」といった方が適切なような気がする本でした。

深い洞察が山盛りで、沢山、抜き出したくなるフレーズが出てきます。サラサラと読めてしまう本ですが、2〜3回は読む価値があると思います。

一部抜粋

P42 単に壮大な理念や原理原則を説くことによって人を育てるのではなく、常日頃の身の回りのことをきちんと行う習慣をつけさせることにより人を育てていく、人としての基本的な考え方を養っていく、というのが松下幸之助流の人づくりではないかと思います。

P58 合理的な判断には怖さもあります。合理性とは今わかっていることを前提にして、最も効果が大きい手段を選ぶことです。計算ができる範囲での妥当性を言います。ところが、世の中にはわかっていないことや計算できないこともあります。(略)合理的な考え方をする人は、えてして狭い範囲の中だけでの最適値を考えようとします。一種の部分最適に陥るわけです。

P168 言説の中の上手な矛盾こそすぐれた経営者に共通するものかもしれない(略) 矛盾や対立こそ、経営者が直面する本質的な問題の一つだからです。


本書の最終盤、筆者は、松下幸之助稲盛和夫を例にとり、彼らの成功は「単なる機能集団ではなく共同体をつくろうとした」ことにある、と指摘しています。


それは確かにそうなのだろうと思います。


しかし、正直に言うと、2010年代の今、大半の日本企業に必要な処方箋は「共同体」を守っていくことなのだろうか?との疑問が湧いてくるのを禁じえませんでした。

本書で賛美される日本的経営が美しいだけに、今の大企業の内実を知る身としては、読んでいてなにか切なくなる感覚があります。


なお、グロービスの「リーダーシップと人材マネジメント基礎」で松下電器ケーススタディがありましたが、その発展学習本としては最適だと思います。受講経験者の皆様に推薦します。