組織は合理的に失敗する/菊澤研宗


組織は合理的に失敗する(日経ビジネス人文庫)

組織は合理的に失敗する(日経ビジネス人文庫)


震災以降、政府や東電の対応に、多くの疑義が示されている。
もっと上手くやれば、原発の被害を抑えられたのではないか、という話だ。


個人的には、基本的にはそうした議論は結果論であり、日本的な組織が劣っているからこうなった*1、という見方には安易に与したくない。もし、福島を上手くコントロールしていたら、こうした議論は起きなかった筈である。

とは言いつつも、やはり、報道を見ていれば、組織的な対応に疑問を持つこともあるし、これを教訓に何かを得たいという欲求は禁じえない。




そこで、書棚から出して再読したのが本書である。



個人的には、文庫版あとがきに記載されている、イマニュエル・カントを持ち出した議論に強い関心を持っている。著者は、カント的倫理観を持つ人間が組織に増えれば、日本型組織の失敗は避けられるのではないか、と指摘している。

ここに注目するのは以下の理由による。




原子力の問題について、推進派(東電・政府・経産省)と牽制派(原子力・安全保安院)のガバナンス制度設計の問題が、これから取り沙汰されるだろう。

組織論の分野では、推進と牽制の権力バランスは、主要なイシューの一つだ。

しかし、これは組織的なガバナンス設計の問題で防げた問題ではない気がしている。

ガバナンスによる推進・牽制関係の確立で全ての問題を防ぐのは難しい。最後は個人のカント的?倫理観*2に頼らざるを得ないのではないか、との議論には一定の真理がある気がしてならない。

そういえば、村上春樹もカントの本をよく小道具として使っていたことを思い出した。


カント倫理学をもっと勉強してみようか…と思う。

*1:たとえば、池田信夫氏がBlogで、名著『失敗の本質』を持ち出して論じている

*2:マイケル・サンデルの議論にも出てくる