アメリカン・スナイパー(2015)/クリント・イーストウド監督

 
我が敬愛するC・イーストウッド翁が、この題材で撮る*1となれば見に行かないわけにはいきません。そういうわけで期待値がかなり上昇してしまいました。その反動なのか、見終わった時の感想は「十分、いんだけど"ハートロッカー”を見た時の衝撃ほどでは無いのも事実」というものでした。
 
でも、十分に価値あるレベルの作品だと思います。こんな危ない素材(右からも左からも叩かれる危険性満載)を映画化して、どちらともとれるような絶妙なバランス*2で仕上げるのだから、並大抵のことではありません。こんな綱渡りみたいなこと、普通できません。
 
個人的には、もう少しアメリカ(アメリカ軍)の負の部分をわかりやすく描写しても良い気がしましたが、それをしたら大作映画として成立しないこともわかりますので、そこにグズグズ言うつもりはありません。一応、描写の中で、米軍の中にある階層構造の分離が進みつつあり、結局貧乏人が一番酷な任務に当てられるという構造が過去に比べてもより鮮明になっていることは軽く描写されていたように思います。それから、「現代の戦争」という点では、資本主義国の日常と砂漠の戦場を長期出張みたいに往復していたのが印象的で、「この落差じゃぁメンタルやられますわ」ということを実感しました。
 
だけど、やっぱり本作が今年のアカデミー賞作品賞を逃したのも納得はできるのです。随所にちょっと雑なところがあるし、手際が良すぎるというのか、パンチというか凄みというような部分がもう一つ、という感想も持ちました。クライマックスのマトリックス的演出とか赤ちゃん演出にはちょっとずっこけてしまったし。これもいろいろ言われている「砂嵐」演出は、あれは、アメリカの中東への関与が結局泥沼(というか砂嵐)の中に巻き込まれている、という監督の暗喩メッセージだと思うのでいいです。
 
僕が直近この前に見たのは「フォクスキャッチャー」でして、とても濃い「アメリカとは何ぞや」作が続いたことになります。どちらも「金・暴力・狂気・歪んだ人間関係」です。ただ、「映画」として「ああすごいなぁ」「味わえるなぁ」という点ではフォックスキャッチャーに軍配を上げさせてもらいます。

*1:実際の功労者はブラッドリー・クーパーですがね。太った役作りも凄かったし。

*2:とはいえ、見る側にブン投げているので、見る側の知識やリテラシーによって感想は大きく変わるタイプの作品です。たとえば監督が共和党の政治家で銃所持には賛成なんだけど、イラク戦争には反対という立場であるとか、主人公が所属しているSEALsとは何なのか、とか普通の日本人だと知らない知識が結構解釈上重要になってきます。