ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー/リーアンダー・ケイニー

 

ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー

ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー

 

 

 
アップルのデザイナーとして有名なジョナサン・アイブの評伝。
 
本書にはマイナス点がいくつかある。アップルの秘密主義により、おそらく本人も公式には協力していないことから踏み込みに欠けると感じる部分がある。加えて、デザインの観点での解説の深さもそれほど専門的でなさそうだ。それでも、Appleというここ数十年単位で最も成功した企業の内側で組織、リーダーシップ・権限配分の分野で、どのような事が起こっているのかを知ることができるという点で面白い本だった。
 
特に面白いのは、ジョブズAppleに復帰(ジョナサンは、その前のアメリオ時代からAppleに勤務していた)してから、経営を立て直していくところ。具体的には、あのカラフルなiMacを出していくあたりの具体的なエピソード。
 
  • 商品ラインの徹底したリストラ
 
有名な話ではあるが、ジョブズが復帰した後、デスクトップとノートという軸、プロ向けとコンシューマー向けという軸の四象限で商品を再編し、有望とも思われたPDAを廃止した決断。これが官僚化し混乱していたApple快進撃のすべての出発点になった。
 
  • 人材も少数精鋭主義
 
これも知られた話だが、ジョブズの組織運営は「少数精鋭主義」。本書のジョナサン・アイブはその中に加わることを許された人材。しかし、ジョブズ個人の葬式にアップル社から参加したのが、この人含む4名だけだった、というのは印象的。(うちもう一人は後継CEOのティム・クック)
 
 
ジョブズAppleは部署や個人ごとに徹底した秘密主義、スパイ組織のごとく末端職員には作戦の全貌を知らせずにごく少数の幹部が「統合」の役割を担う組織運営。日米の経営組織比較論の題材としても非常に興味深い。
 
ジョブズは、組織の一番下まで行き届く明確な命令系統にこだわった。誰に報告するのか、自分に何が求められているかを全員が知っていた。
ジョブズはビジネスウィーク誌にこう語っている「すべてがシンプルになった。集中と簡素化は私のマントラだ」P160 
 
  • CEO直結のデザイン優位の確立
 
これが本書の主題だ。
 
(ジョナサン)「デザインを差別化の手段だと思っている人が多すぎる。全く嫌になるよ。それは企業側の見方だ。顧客や消費者の視点じゃない。僕たちの目標は差別化じゃなくて、これから先も人に愛される製品を作ることだと分かってほしい。差別化はその結果なんだ」
アップルデザインの独立を可能にしたのはジョブズだった。「たいていの人はデザインをお化粧と勘違いしている」。アップル復帰の直後、ジョブズはフォーチューン誌にこう語っていた。「だが、私にとって、デザインとは人間の創造物の中心にある魂のようなものだ」P193

  

他にも、エンジニア部門との対立からデザイン部門の権限強化。オフィスの場所も社外から本社内へ、など非常に面白い。
 
 
 
トリビアだが、Apple入社前のジョナサン・アイブが日本のゼブラのペンをデザインしていたとか。
 
改めて1998年に社会人になった自分は、アップルの隆盛とともに社会人生活を過ごしてきているんだな、と思った。