パン屋を襲う/村上春樹,カット・メンシック

 

パン屋を襲う

パン屋を襲う

 

 

僕は二度、パン屋を襲撃した。一度めは包丁を体に隠して、二度めは散弾銃を車に載せて―。初期作品として名高い「パン屋襲撃」「パン屋再襲撃」が、時を経て甦る。ドイツ気鋭画家のイラストレーションと構成するヴィジュアル・ブック。

 

というわけで、昔出版した作品を、ビジュアルブック形式にして再発売した本。あとがきによると、この再出版にあたって、著者は細かく手入れをした、と書いてある。
 
村上春樹フリークとしての自分の遊びは、どこをどう改稿したのか探すこと。我が家にある全集を引っ張り出してきて比べてみる。(これをしている時は、とても楽しい。われながら暗い)
 
驚くほど細かい部分の改稿を全編に渡って施している。作家とは(あるいは村上春樹とは)、ここまで言葉に対して真剣なんだ、ということが分かる。そして、作家もキャリアを経て成長し、技量を増していくのだということも感じられる。ただし、それは後で手入れした文章の方が技量的に上、ということではなくて質感を変えたいための変更である可能性もある。村上春樹はあとがきで「雰囲気を変えたくなった」と書いている。
 
最初の二行だけ抜き出してみた。
 
《オリジナル》
パン屋襲撃の話を妻に聞かせたことが正しい選択であったのかどうか、僕にはいまもって確信が持てない。たぶんそれは正しいとか正しくないとかいう基準では推しはかることのできない問題だったのだろう。「パン屋再襲撃 村上春樹全作品  1979-1989 8 短編集Ⅲ」
 
 
《改稿後》
パン屋を襲ったときの話を妻に聞かせたことが正しい選択だったのかどうか、いまもって確信が持てない。たぶんそれは正しいとか正しくないとかいう基準では推しはかることのできないものごとなのだろう。「再びパン屋を襲う」
 
 
村上春樹は世界で人気だが、こういう楽しみ方をできるのは日本の読者だけなのだから、ありがたい。