クリエイティブ人事 個人を伸ばす、チームを活かす/曽山哲人, 金井壽宏


サイバーエージェントの人事についての本や雑誌の記事は沢山出ているが、ある意味「決定版」的な一冊。

クリエイティブ人事<制度>というよりは、クリエイティブ人事<部のあり方>という感じの内容。←ココ、重要なところ。

うちはサイバーエージェントと違うから・・・ と敬遠せずに、日本企業の人事に携わるなら読んでおいても損は無い内容だと思う。

付箋をつけたり要約したりもしたのだが、本業の方で披露するのでこちらでは割愛。

おとなが育つ条件 発達心理学から考える/柏木恵子


さすが岩波新書。新書ながらも手抜き感なく、インテレクチュアルな中身がぎっしり詰まっている。(流し読みには苦しいスタイル)

「頭の良さ」とは、その人が所属する社会で受けいれられる程度であり、国ごと(社会・文化ごと)に「頭の良い」とされる人の実像は違う、という。日本では、「熟考し、空気を読む」行動スタイルが「頭がいい」とされ、これは世界の中では特徴的なものである。なんと小学校入学初期から、外国と日本のこの差が生まれていることが、実証実験により確かめられているという。

好き嫌いと経営/楠木建


面白かった!の一言。

経営学版、プロインタビュアー吉田豪こと楠木先生による「経営者コク宝」のように思えました。

実務的でもないし、実益を得られそうな本でもないし、繰り返し読みたくなるような内容でもない。著者自身もエンターテイメントに徹しているような感じであるが、でも実は、この本が追求していること(唯我独尊のアニマルスピリット)が、今の日本企業に一番足りないことのような気がする。そう考えると意外に深い。


14名との対談だが、やはり、トップを飾る、日本電産の永守さんと、大トリの大前研一は、もうぶっ飛び方が別次元。ここだけでも立ち読みすると良いと思います。


(参考)

人間コク宝

人間コク宝

仕事道楽 スタジオジブリの現場/鈴木敏夫



宮崎駿高畑勲徳間康快・(と鈴木敏夫)といった異能の人々の豪放磊落な活躍話。非常に面白かった。これらの人々は吉田豪のインタビューを受けることは無さそうな気がするので、貴重な記録だろう。別に特段のジブリファンで無い自分でも楽しく読めた。


・自分よりも上の人にどのように相槌を打てるか。教養の共有の程度は相槌の打ち方に現れる。(p29)

スタジオジブリは「熱風」という意味だが、設立時は「日本のアニメーション界に旋風を起こそう」という気持ちでつけた。

・プロデューサーとは、結局言葉をどう使いこなすかという仕事なんですね。映画づくりに関わるさまざまな分野の人たちに伝えるべきことを伝え、映画を観てくれる人たちに向けた言葉を編み出す。全て言葉なんです。(P160)


ジブリアニメの真骨頂は「表現」にある。ストーリーではない。


引用


額面通りには受け取れない言葉だが、この奇才二人とこれだけ付き合える鈴木氏も相当な奇才。

ある人の表現ですが、宮さんはエンターテイナー、高畑さんはアーティストという違うがあるという。そうかもしれません。でも、その違い以上に重要なのは、二人ともある種の理想主義者だということです。その理想主義者二人とずっとやってこれたのは、僕が現実主義者だったからだと思いますね。僕はいつも割り切ってクールに処してきたから、長きにわたっていっしょにやれた。高畑さんから言われたことがありますよ。「生涯会ったいろいろな人のうちで、鈴木さんが一番クールだ」と。(p241)


経営者としてのこの「戦略」というか「矜持」には感銘を受けた。

ちなみに付言すると、関連事業を増やして行く方向での解決は嫌でした。たとえば、キャラクターを商品化して関連グッズを売る、という話はやまほど来ましたよ。その方向で拡大路線をとると、本当に「商売」になってしまいます。何より作品を作ることが中心の会社であり、腕のいい町工場でなければならない。変質してしまったら、何のために会社を立ち上げたのかわからなくなってしまう。だからむしろ、グッズに関しては一定以上の売上にならないように注意していました。(p243)


そして、プロデューサーの鈴木敏夫の真骨頂はこれだと思う。2013年に「風立ちぬ」と「かぐや姫の物語」の二本をプロデュースしての感想。

二人にはとことん好きなものを作ってもらう、ぼくはそのことに徹しました。お金も用意したし、期間も用意しました。ぼくとしてはこれで、宮さんにも高畑さんにもお世話になったけれど、借りは返したかなという気分です。
あまりお金のことは言いたくないけど、二本で100億円ですからね。前代未聞なんですよ。さすがに関係各社もみんな青くなって、「回収はどうなるんですか?」と訊いてきました。そんなこと知ったこっちゃない、宮さんも高畑さんも思いの丈を全て注ぎ込んで作った作品なんだ、おまえら世話になっただろうが、というのがぼくの内心の声です。(P237)

結局、2014年公開の「マーニー」を見に行きたくなってしまった。鈴木敏夫の術中にはまっている私。

私はこうして受付からCEOになった/カーリー・フィオリーナ

私はこうして受付からCEOになった

私はこうして受付からCEOになった

受付からコツコツとキャリアを積み上げ、巨大企業のCEOへ―。アメリカでも、これほどの大企業で女性がCEOに就くことは珍しい。しかし女性であるがゆえに注目を集め、メディアの餌食となっていく。創業家一族の思惑、変化を怖れる取締役陣の裏切り。そんななか彼女は最後まで、会社のため、従業員のためにベストを尽くした。その潔さは、静かな感動を呼び起こしている。

HPでCEOを務めた女性の自伝。本書の存在は知っていたがこれまで手に取る機会がなかった。これが予想以上に面白かった。いわゆる立身出世物語だから、ストーリーに推進力がある。映画を見ているような感じもあった。アメリカの勤勉で平凡な家庭に育った女性が、地味な仕事からスタートし、途中結婚に失敗したりしながらも、企業内の出世の階段を上って行く。

一つ大変興味深かったのは、彼女がビジネスキャリアをスタートした1970年代後半のアメリカは、セクハラがバンバンあった、ということが色んなエピソードとともに書かれていることだ。著者も営業でストリップでの接待を余儀なくされたり、「彼女は我が社のセックスシンボルです」と自社のヒトに紹介されたり、大変だったらしい。今でこそアメリカというと「セクハラに厳しい国」というイメージが強いが、社会は歴史とともに変わるのだなぁ、という感慨を持たざるをえない。(特に、先月、都議会の「セクハラ野次」が話題になったタイミングであるので印象に残った)

それから、いわゆる落下傘経営者としてHPへ移籍する際のエピソードが興味深い。HPの取締役会と指名委員会が候補(そのうちの一人が本書の著者だった)を探して、接触する様子が描かれているが、なんと候補者(CEO候補に!)に「心理テスト」を受けさせるらしい。それに怒って候補から辞退したヒトも居た、と書かれていた。このあたり、善くも悪くも?いかにもアメリカンWAYであるなぁ、と思う。その後HPに落下傘CEOとして入り、その独特の体質に苦労するあたりのエピソードも、企業改革モノとしては興味深いものである。

そもそも私が「企業経営者自伝モノが好きだ」というバイアスを差し引いても、面白くてオススメの本かと。

英語で話すヒント-----通訳者が教える上達法/小松達也


英語で話すヒント――通訳者が教える上達法 (岩波新書)

英語で話すヒント――通訳者が教える上達法 (岩波新書)


通訳歴40年超という著者。新書ではあるが、内容はイージーな感じではない。著者の真剣な思考の軌跡を伝えてくれている。(英語本の分野はイージーな感じを装う本が多いからそんなことを感じたのかもしれない)

・英語には文の構造としてSVOかSVCの二通りしかない、と考えることが理解を助ける。

・フランス語を対象とした研究ではあるが、発表語彙数(使いこなせる語彙)は、理解語彙数(読んだり聞いたりして分かる語彙)の約半分である。これからは、発表語彙数を重視して考えるべきだ。(これは実感に合う、というか、なるほど実際そうだわ、と思った)

・ボキャビルにおいて、暗記は25%以下におさめるべき。多読や多聴で何度も出会う中で自然に覚える方法こそ最上であり王道。

・研究者によれば「精読」よりも「(流し読みでもいいから)多読」の方が英語力強化への近道。

このあたりが印象に残った。

マッキンゼー―――世界の経済・政治・軍事を動かす巨大コンサルティング・ファームの秘密/ダフ・マクドナルド



タイトルからの予想に反して軽薄なゴシップ本ではない。重厚に、比較的中立的に事実を積み重ねている。マッキンゼーの実像をその誕生(アメリカにビックビジネスが産まれたタイミング)から、現代(ポストリーマンショック)に至るまでを精密に描くことにより、付随的にアメリカの経済産業史を概観できる内容になっている。アメリカの企業史に興味があり、かつ、コンサルティング業に長く従事してきた僕にとっては、とても面白かった。


マッキンゼーは、創業時代「強烈な自負と倫理観」を特徴としていた。自ら宣伝はしない(採用広告すら出さない)、儲かる仕事でもふさわしくない案件であれば仕事を断る、創業者が株式公開で巨万の富を得るチャンスを自ら封印する、などの行為が実際にあり、「CEOのみにサービスする戦略コンサルティング」という職業をゼロから作り出した。しかし、クライアントであるアメリカ企業の斜陽、自身の世界への拡大、IT化によるシステムコンサルティングの台頭、ドットコムバブルや投資銀行業の隆盛などにより、その当初のエートスを失いつつ、コンサルティングのテーマやスタイルを微妙に変えつつ今も活動している。


もちろん、ゴシップ的な(ゴシップとまで言えないレベルでも)興味惹かれるような事実も本書には沢山書かれている。倒産間際のGMマッキンゼーに月2億円の顧問料を払っていた、とか、ATTは年間10億だ、とか、BCGの台頭に対する焦りとか、トム・ピーターズ(『エクセレント・カンパニー』の著者)にまつわるゴタゴタとか、エンロン絡みの話とか、売上の85%が既存客からのリピートからだ、とか、オバマ政権マッキンゼーを重用している、とか、その辺は純粋に面白い。


(人事コンサルタント的にはマッキンゼーが書いた『ウォー・フォー・タレント(人材獲得競争)』という本が非常にくだらない最悪の本だ、とこき下ろされているのには笑った)


Amazonの書評にも出てくるが、この本人唯一登場する日本人、大前研一が「皇帝(エンペラー)」として描かれているのには何か日本人として愉快な感情を禁じ得なかった。マッキンゼーをワールドワイドに指揮したわけではなかった(そして日本支社の業績は良くなかったとも書かれている)が、とにかく頭が圧倒的に良かった、との著述がある。

マッキンゼーの戦略通上位23人がテーブルを囲んで、アイデアをぶつけあった。それほどの知力の集まりの中でも、東京のコンサルタントである大前研一が群を抜いていた。会合の終わりに、フォイが出席者に示した得点表には、ローマ時代に闘技場でキリスト教徒とライオンを戦わせたことになぞらえて「ライオン10点、キリスト教徒5点、大前37点」とあった。(p164)

(あと、大前研一が常にボディガードを従えており、ボディーガードがピストルを人に見えるように机の上に置いていた、とか。ホントですか?)


本書は安くはないお値段だし、ハウツー本では無い上に、読むのに時間が掛かるタイプの本なので、安易に推薦はできない。それでも本書をお薦めしたい層の第一は、コンサルティング業務に従事する/したことがある人、逆によく使っている人である。それがたとえマッキンゼーでなくても、面白く読めると思う。第二は、海外の企業組織の特徴や歴史について知りたい人である。マッキンゼーが極めて白人男性エリート限定的な組織だったところから、人種属性が多様化して遂にはインド人トップを頂くようになるような歴史であるとか、発注側として日本と大きく違う企業のCEOの考え方の描写などの点において勉強になると思う。