一途一心 命をつなぐ/天野篤

一途一心、命をつなぐ

一途一心、命をつなぐ

心臓外科医としてこれまでに6000人以上の命を救った順天堂大天野篤教授。
2012年2月に天皇陛下の心臓手術を執刀しましたが、執刀医が東大病院の医師ではなかったことが世間を驚かせました。
3浪して日大医学部に入った落ちこぼれ医師が、天皇陛下の執刀医に選ばれたのはなぜか?
その理由がわかる、著者初の単行本!


素晴らしい。本として素晴らしいというか、この方の存在が素晴らしい。


天皇陛下手術の執刀の舞台裏を多少見せてくれる第二章が凄い。


自分も仕事柄感じるのだが、プロの専門職にとって、仕事の依頼は嬉しいものだが、怖いものでもある。この依頼が自分に完遂できるか、自分のレベルはそこに達しているか、という不安が常につきまとうものだ。本書の著者が依頼されたのは、よりによって天皇陛下の胸部手術執刀である。プロにとってこれ以上のオファーがあるだろうか(いや、ない)。


しかし、このオファーを受けてもドキドキしたり舞い上がったりしないのが著者の凄みである。第二章では、東大チームは外様の執刀医をどう迎えたのか、緊張感高まる前日をどう過ごしたのか、手術翌日に著者が遭遇した市井の人の思わぬ反応とは、そして天皇陛下から何を学んだか、が語られる。本書はこの章だけでも読む価値がある*1


そしてこの第二章を読んでしまえば、この先生がこの境地に至るまでにどのようなキャリアを経たのか、読まずには居られなくなる。


もちろん、綺麗事だけではなかっただろう。先生は聖人君子でもないのだろうし(周囲との軋轢、師匠との葛藤など黒い部分も多少語られている)、こんな生き方はとても他人が真似できるものでもない。そもそも本書を読めばわかるが、著者自身もこんな生き方になるとは当初は思っていなかった、とのこと。しかし、運命の綾(アヤ)が、驚異的なキャリアを作っていく。まさにクランボルツの「計画された偶然性」という言葉が思い出される。




クライアント商売の自分も、古い言い回しにはなるが、千分の一でもツメの垢を煎じて飲みたい、と思った。


初心に帰る気持ちになれる一冊でもあり、年末年始の読書にもオススメだと思います。

*1:正直、この章だけで5億点ですよ(シネマハスラー風に言えば)