私たち「ユニクロ154番店」で働いていました/大宮冬洋

新感覚ビジネス書! 「ユニクロロードムービー」。

国際派ビジネスマンを夢見て、急成長するユニクロ(ファーストリテイリング)に新卒入社した著者が見たものとは!?

2013年、ついに1兆円企業へと到達する、大企業ユニクロへの細やかなアンチテーゼ。

MyNewsJapan
渡邉正裕氏推薦!
「1つの店舗の話で全体がわかる。それがこの会社の「強さ」であり「弱さ」でもある。」

(アマゾンより)


私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。

私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。


著者からの献本御礼。

WEB連載中から面白いな、と思っていた。


僕はコンサルタントという職業柄、ファーストリテイリングという傑出した成果を残す企業には注目していて(しなければコンサルとしてはモグリだろう)、柳井さんの著書の「1勝9敗」「成功一日で捨て去れ」はそれぞれ2回は読んでいる。これらの本を題材に、日本企業のビジネスパーソンとディスカションをしたこともある。彼の経営論は、本を読んだだけでも、現代の日本人経営者としては「苛烈」の部類であることは明白で、それに賛成できるか、出来ないか、は、意見が別れるところだろう。ある種のリトマス試験紙的な存在だと思う。とはいえ、ビジネスマンとしては賛成できるか出来ないかではなく、合理的に学べるところを抽出する作業をするべきだと思うし、実際僕はそうした。本書の著者は、そういうのが嫌なんですよ、と言いそうだが(笑)。本書の著者はそのリトマス試験紙的存在に、あまりにも不用意に「最初の就職」という、これまた多くの人にとって強烈なトラウマを残す時期に飛び込んでしまい、志向も思考も合わずに弾かれてしまうという経験を持った。それを出発点にライターとして立ち、本作のような作品を世に問うているのだから、人生は面白い。


優れた作品の条件は小説であれ映画であれ経営論であれディテールが豊かであること、とされる。本書の面白さはそのディテールの豊かさである。ユニクロという企業の現場、店舗で起きている矛盾*1、社員たちの一人ひとりのキャリアと、関東近郊のカルチャー、決して「超目新しい」というものではないが、この現実感は良い。特に柳井氏の経営論をよく読んできた自分(まあ一般的には珍しい部類かもしれませんが…)にとっては、ああいう風に経営すると店舗の社員の一部はこういう風に感じたり行動したりするんだなぁ、という風にも読めた。


ディテールの他にもう一つの本書の特徴が、著者のセンチメンタリズム。これはこれで、本書に対する共感の程度を分ける一つのリトマス試験紙ではないだろうか。「株式会社って、人の気持を斟酌してくれなくて、時に非人間的でツライよね」という問題。これは昔からある。僕も悩んだ。今も悩んでいる。とはいえ、僕は現実のビジネスにおいてセンチメンタリズムで対処はしないようになった。そうなったのは社会人として色々経験したからかなと思う。振り返ると確かに20代はビジネスにセンチメンタリズムを持ち込んで悩んでいたような気もする。こうなったのは成長なのか退化なのか。人により見方は様々だろう。ただし今でも芸術方面を楽しむ上で、センチメンタリズムは重要で大好きだ。というわけでは本書は、リアルなディテールを楽しむ部分と、ちょとビジネス界に持ち込んでもしょうがないと僕は思うセンチメンタリズムの部分*2、が混ざった不思議な存在の本、というのが感想。


とにかく、日本でビジネスに興味があるというならファーストリテイリングのことくらいは徹底的に(功も罪も)研究して当たり前!というのが僕の持論なので、本書も当然(その副読本として)読むべしです。(こういう宣伝もありでしょうかね)

*1:まあ、この程度の矛盾は組織であればどこでもあることなんだけど、確かにその強度が強いのだろうなということは感じられた

*2:それを著者の持ち味として評価する人もたくさん居るだろう。