修業論/内田樹

修業論 (光文社新書)

修業論 (光文社新書)

久しぶりに内田樹先生の本を読む。昔は、結構好きで10冊以上は読んだ事があるのだが、ある時から何か肌があわない、違和感を感じ始め、(こういうのを卒業というのかな…、などと思いつつ)最近はご無沙汰だった。

久しぶりに読むと、やっぱりこの人の凄いのは文体というか文章力だな、とまず思う。たとえば、文章はとても平易なのに一ページに2回くらい一般人が使わない熟語が入る。これで「この人は頭良いぞ」と読み手に気合が入る。

本書の主題について言えば、内容は良かった。武道・修業・哲学ということについての思索という意味で得るものがあったと思う。

ただ、内田先生型の言論のレトリックというか違和感はやはりある。

一つ例をあげると、本書内では、科学主義的(実証を重んじる)と科学的(既存科学では証明できないことがあることを受け入れる態度)との違いを論じて、後者を重視する論が展開されている。科学主義を否定はしていないが、科学主義に対するあてこすり的なものを感じた。それはエッセイとしては良い。ただ、現実の問題では、科学主義的なものから人間が享受しているもの、それがもたらした貢献を謙虚に誠実に受け止めることが必要だ。だから、この人の文章は一つの街場のおじさんのエッセイとして楽しむにとどめるべきものなのだと思う。

で、多少は先生の本を読ませていただいた私が類推するに、内田センセはこういう指摘に対して「私は最初からおじさんのエッセイのつもりだよ」ということになるのだろう。なんか、そういうのがむなしくなった、というのが違和感の原因なのかな、と思った。