街場のメディア論/内田樹


街場のメディア論 (光文社新書)

街場のメディア論 (光文社新書)


多作の内田先生の本の中でも「売れている」新作。売れていることが納得できる、面白い論考。三カ所、備忘録として引用しておこう。

p57
でも、僕はメディアが「庶民の代表」みたいな顔つき、言葉遣いをしてみせるのはおかしいだろうと思うのです。現にそうじゃないんだから。難しい大学を出て、大変な倍率の入社試験に合格して、(略)、ジャーナリストが、責任逃れをするときに「無知や無能」で武装するというのは、ことの筋目が違うでしょう。

↑メディア、特にマスコミに対する批判として本書の中核的なメッセージ。




p105
せめて僕達にできることは、自分がもし「世論的なこと」を言い出したら、とりあえず一旦口を閉じて、果たしてその言葉があえて語るに値するものなのかどうかを自省することくらいでしょう。もしかすると「誰でも言いそうなこと」ではないのか。それゆえ、誰かに「黙れ」と言われたらすぐに撤回してしまえることではないのか。

そう問うのはたいせつなことです。どうせ口を開く以上は、自分が言いたいことのうちの「自分が言わなくても誰かが代わりにいいそうなこと」よりは「自分がここで言わないと多分誰もいわないこと」を選んで語るほうがいい。それは個人の場合もメディアの場合も変わらないのではないかと僕は思います。

↑これについては、自分の職業柄多々感ずるところあり。昔から自分も漠然とこのように思う心を抱えている。これは推測だが、自分が言っていることが世論に過ぎないと気づいてコンサルタントを辞めた、という人が何人かいるように思う。深い問題。




p151

だって書棚にならんだ本の背表紙をいちばん頻繁に見るのって、誰だと思いますか。自分自身でしょう。自分からみて自分がどういう人間に思われたいか、それこそが実は僕達の最大の関心事なんです。

↑本書後半の「本棚」論、は面白かった。その白眉の一箇所。本をセレクトして本棚を演出してくれるブックディレクターという仕事があるのを知っているけれど、その人の仕事の意義がなんとなく分かった。

というか、ブログの書評録*1も上の引用と同じ効果を果たすものだったりして。というか多分そうなのだろう。

あと、内田樹がよく書くジャック・ラカンの「前未来形」という概念が本棚論でまた活用されていたが、これを、もう少し勉強しておきたい。

*1:たとえばこのブログ