上野先生、勝手に死なれちゃ困ります 僕らの介護不安に答えてください (光文社新書)/上野千鶴子 古市憲寿

ベストセラー『おひとりさまの老後』を残して、この春、東大を退職した上野千鶴子・東大元教授。帯の名文句「これで安心して死ねるかしら」に対して、残された教え子・古市憲寿が待ったをかける。親の老いや介護に不安を覚え始めた若者世代は、いくら親が勝手に死ねると思っていても、いざとなったら関与せずにはすまない。さらに少子高齢化社会で、団塊世代による負の遺産を手渡されると感じている子世代の先行きは、この上なく不透明。だとすれば、僕たちが今からできる心構えを、教えてほしい―と。これに対し、「あなたたちの不安を分節しましょう。それは親世代の介護の不安なの?それとも自分たち世代の将来の不安なの?」と切り返す上野。話は介護の実際的な問題へのアドバイスから、親子関係の分析、世代間格差の問題、共同体や運動の可能性etc.へと突き進む。30歳以上歳の離れた2人の社会学者の対話をきっかけに、若者の将来、この国の「老後」を考える試み。


対談調で読みやすい。80分くらいで読んでしまった。


まず、上野千鶴子って頭いいな〜と思った。


昔の男性主導社会にここまで頭イイ女性がいると、受け入れられなかっただろうなと思う。なんとなく立川談志を彷彿とするキレの良さ。本人は「見えすぎちゃってる」けれど、それで言うことが「過激」と受け取られて敵が増える。それで本人は更に攻撃的になる、みたいな。


本書では、草の根の女性運動で苦労した上野先生の経験に基づく言葉が力強い。

上野千鶴子

社会変革に関して歴史上分かっているのは、既得権益をもった集団が内部改革によって変化するってことは、ほぼないってこと。


とバッサリ。ただし革命を推奨するわけではない。


概ね以下のような話がされる。


社会は徐々に「草の根」「現場」で変わる。それは、「弱者が傷を舐めあう」ことからしか始まらない。昔は、子育てや介護に困って追い詰められた専業主婦が電柱にビラを貼って同志を探してたんだよ。それだって徐々に動いていって(保守層から介護は家族の仕事で介護保険なんていれたら国が崩壊するとかなんだかんだ言われたけれど)介護保険という制度が導入できた。これが日本の底力。アメリカなんて健康保険ですら国がまとまらずに導入できない。


あと、この本には子育て論、親子論、的な内容も多い。特に「団塊の親とその子」についての分析が多く、そこも面白かった。「子どもを大人にしたくない親と大人になりたくない子供の共犯関係」とか「高度成長の波にのってなんとなく裕福になった親の子育ては、子供の頃自分ができなかったことをさせてあげたい、というだけの発想しかなく、この富をどう引き継がせるか、という戦略にまで頭が回らなかった」とか、なるほどな、と思うことが多かった。


古市さんは本書内で「大人になりたくない」「庇護下の立場でありたい」と自分で語っていたけど、宇野常寛が「リトル・ピープル」で論じていたこととなんか共通点を感じた。(とりあえず、宇野氏は父になる覚悟は出来たらしいが)


コンサマトリーという言葉は覚えておきたい。というか「コンサマトリー」の周りを調べるためにまず、読んだのがこの本だったという位置づけ。