ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録/西川善文


ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録

ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録



仕事柄(お役目柄)読んでおかなければ、と思って読んだが、予想通り、面白い本だった。


「あの事案*1の裏話」的な読み方もできるのだが、それ以上のものを感じた。全編にわたって、著者である西川氏の「苛立ち」が感じられたような気がする。


おそらくその理由は、「おわりに」に書かれているこのあたりに関係している。長くなるが引用しておく。


傷んだ企業の傷んだ事業と傷んだ資産を立て直すとは、雇用と事業をどこまで守るべきなのかを痛みをもって決断することである。私たちは全能の神ではない。一人の人間としてはひとりでも多くの従業員を守り、一円でも多い利益につながるような事業にしたいと願う。だが、その願いを聞いてもらえるほど世の中は寛容ではない。従って、血を流すことはあっても、何を最後の一線として守るかの決断を、神ではないただの人間の集団がしなければならない。


 これは本書を書くにあたってのささやかな願いでもあったのだが、本書を読んで下さった皆さんが、私達が合理性と現実の間で悶々としながら決断を繰り返してきたことを感じとってもらえたならば*2幸いだ。


 ビジネスはドライで合理的なものである。これを否定する人は誰もいない。マスコミの記者も会社に属しながらビジネスとしての報道を続けているのだから、この合理性と無縁でいることはできない。では、なぜビジネスの現場における合理性を、合理性でなく根拠なき情緒で批判するのだろうか。そのような態度が誠実なものでないことは、当のマスコミを含めた誰の目にでも明らかであろうと思う。

 

 実務に携わる人のこういう苦しみを分からずに批判するマスコミ、学者、コンサルタントこそが害、ということだろう。肝に銘じじたい。ただ、自分の場合、日本とは結局そういう社会、と諦めてもいるが。苛立つと疲れるだけ、という気もする。冷めすぎか。


 それはともかく、本書は日本型組織におけるリーダーシップ論としての側面も多分に含んだ本なのでそういう楽しみ方もできる。西川氏が企画部長時代に会長に引導を渡すために行動を起こしたシーンについては、「これこそが日本の江戸時代からの伝統、ホンマものの“主君押込”や!」と感心しながら読んでしまった。

*1:安宅産業再建、磯田一郎氏との愛憎、UFJとの経緯、GSとのディール、わかしお銀を使った件でイギリスに飛んだ話、郵政での混乱など裏面史は確かに読んでいて面白い。

*2:自分はとても強く感じ取ることができた