ノルウェイの森/村上春樹

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)


ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)


もうすぐ映画公開なので、すこし真面目に再読してみた。以下徒然なるままに。

  • 作中の主人公ワタナベは19歳。村上春樹がこの作品を書いたのは30代前半。最初に僕が読んだころはそれこそ19歳くらいだった。再読した今は、30代前半は過ぎた年齢になっている。色々感想が変わったり、見方が変わったりして、面白い。
  • 昔は主人公の自我を持て余しているさまを、自分も共振しながら読んでいたが、今は「村上春樹ってこんなことを書けるのすげえなあ」と、読みながらよく思った。
  • 「恋愛小説」とか「エロな描写がキツイ」ことで有名なこの小説だけど、僕は昔からこの小説は主人公の先輩で独自のファシスト的な思想を語る「永沢さん」という東大生が出てくるところが好きだ。そこをメインに読んでいる。今回読み直しても、やっぱり永沢さんの出てくるところはすごく良い。特に下巻のワタナベ、永沢さん、ハツミさん(永沢さんの彼女)の三人のフレンチレストランでの食事シーン*1の会話は圧巻の描写と内容で、「村上春樹すげぇ」と思う。
  • 永沢さんの人物造形は素晴らしいのだが、これは、実は主人公が潜在的に抱えている人格の投影像だったりするんだろうなぁと今は読みながら思う。

いちばん有名なのは、↓

自分に同情するな。自分に同情するのは下劣な人間のやることだ。

というセリフだろうか。


ファンの間では有名な「紳士問答」(これは私の勝手な命名)↓


「ねえ、永沢さん。ところであなたの人生の行動規範っていったいどんなものなんですか?」と僕は訊いてみた。

「お前、きっと笑うよ」と彼は言った。

「笑いませんよ」と僕は言った。

「紳士であることだ」

僕は笑いはしなかったけれど、あやうく椅子から転げ落ちそうになった。「紳士ってあの紳士ですか?」

「そうだよ、あの紳士だよ」と彼は言った。

「紳士であることって、どういうことなんですか?もし定義があるなら教えてもらえませんか」

「自分がやりたいことをやるのではなく、やるべきことをやるのが紳士だ」

「あなたは僕がこれまで会った人の中でいちばん変わった人ですね」と僕は言った。

「お前は俺がこれまで会った人間の中でいちばんまともな人間だよ」と彼は言った。そして勘定を全部払ってくれた。


村上春樹全作品1979ー19896 ノルウェイの森 85ページより引用

  • 永沢さんの名言集は、インターネットで検索すると色々、出てくるので、興味のある方はそちらを。
  • 永沢さんの役は映画で玉山鉄二がやるんですよね。大丈夫かな…。
  • 少しトリビア解説をすると、「ノルウェイ」の森というビートルズの曲の邦題は、実は誤訳で、Norwegian wood、という単語は、本当はノルウェイの家具、といった訳の方が正しいらしい。当時の東芝EMIで、このビートルズのタイトル邦題をつけた張本人のおじさんが去年あたりに爆笑問題TBSラジオ番組にに出て居たのだけど、このおじさんがまた強烈なキャラで「村上春樹は売れたのはオレのお陰(笑)だよ。ノルウエィの家具っていうタイトルだったらベストセラーにならなかったってwww」と豪語していてすごく面白かった。このタイトル誤訳問題については、村上春樹も当然認識していて、インタビューで何か見解を語っていた気がする。

*1:このシーンについて、最近の村上春樹はインタビューで、それまで一人称小説を書いてきた同氏が、三人での会話を小説で書いたのは初めてで、すごく一生懸命書いて、楽しかった、という趣旨の発言をしている