フェイスブック 若き天才の野望/デビット・カークパトリック

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)



保守的かつ多少シニカルな傾向のある僕は、ツイッターは導入していないし、最近話題のFacebookも恐る恐る登録しているだけなのだけど、話題の映画「ソーシャルネットワーク」を観にいきたいのに忙しくてなかなか行けないので、思いきって評判の良い本書を読んだ。そうしたらこれが、期待以上に面白い本だった。

Facebookが、予想以上に「大学」という揺りかごの中で誕生したことがよく分かったし、何故、皆の写真が実物よりもやや良いものが載っているのか?という僕が感じていた疑問の理由も良く分かった。

それにしても、アメリカという国の流動性には感嘆するばかり。ちょっと良いタネ(例えばこのビジネス)があると、一気にヒトモノカネがすごい勢いで集まってきて、よってたかって、あっという間に時価総額1兆円企業を作ってしまう。よくも悪くも、This is U.S.A だなと。社会インフラは真似できるものでもないの仕方ないとしても、若者と年長者が、対等に議論しあい、協力しあう、ところは日本も見習っても良いと思う。

皇帝マーク・ザッカーバーグの偏屈ぶりは野次馬的観点からも興味深いが、純粋にすごいと思うのは、彼が社会に対してあるビジョン*1を持っていて、そのコンセプトについて議論をしながら、サービスを作っているところ。そのビジョンが正しいか否か、共感できるか否かは脇に置くとして、僕が仕事をするときに「これからの世の中はどうなるか、どうしたいか」という事を十分に描いて仕事をしているかどうか、考えさせられてしまった。

本書には、ITビジネス、経営戦略*2、投資ビジネスの内幕、青春成り上がりもの、SNSやコミュニケーションの未来、等々色んな要素が詰まっており、単に「海の向こうの情報を仕入れる」ということを超えたエンターテイメント的読書体験としても大変楽しめる一冊だ。内容は濃くて長いので読み通すのは結構骨が折れると思うけど、それでもオススメです。

ついでに書くと、リーマンショック・コンフィデンシャルでも思ったけど、すぐにこれだけ濃い*3ノンフィクションドキュメントが出てくる、という書き手の層の厚さもアメリカの尊敬すべき点である。




さて、マーク・ザッカーバーグは、チュニジアやエジプトの革命を見て何を思ったのだろうか。中国をどう見ているのだろうか?世界はますます面白い。



追伸:実際にお会いしたことのある方、Facebookの友達申請をお待ちしております。

*1:彼自身は、フェイスブックのコミュニケーションを一種のポトラッチ、という風に自分で語っているけれど、そんな哲学的な経営者、日本に居ますか?ちなみに、ポトラッチっていうのは、コミュニケーションの原点として内田樹が「街場のメディア論」で語っていたことでもある。僕にはこれが偶然の一致とは思えなかった。

*2:フェイスブック成功の理由は、徹底して長期的に物事を考えるこのCEOの性質によるところが大きい、と皆が語る。「成功の要因は彼(CEO)の動機が金儲けでなかったところだね。」という周囲の人のコメントは極めて示唆的。本書を購入した書店では隣に「ストーリーとしての競争戦略」が平積みされていたけれど、本書の第一章にてハーバード大でフェイスブックの歯車が回りだすところには、まさに「わくわくして誰かに語りたくなる戦略ストーリー」の良い実例だった

*3:SNSについての洞察など大変深い