街場のメディア論/内田樹 続き

この本からもう少し抜粋しておきたい。タイトルはメディア論というけれど、実は「人材成長論」としての内容が多く書かれている。

p30 

繰り返し言うように、人間がその才能を爆発的に開花させるのは、「他人のため」に働くときだからです。人の役に立ちたいと願うときにこそ、人間の能力は伸びる。それが「自分のしたいこと」であるかどうか、そんなことはどうだっていいんです。とにかく「これ、やってください」と懇願されて、他にやってくれそうな人がいないという状況で、「仕方ないなあ、私がやるしかないのか」という立場に立ち至ったときに、人間の能力は向上する。ピンポイントで、他ならぬ私が、余人を以ては代え難いものとして、召喚されたという事実が人間を覚醒に導くのです。

↑「自分探し」「天職探し」に見られる「自分の適性が先にあって、マッチした仕事をみつける」という考え方を否定した後に出てくる文章。自分の経験からもしっくりくる。自分自身、こういう立場に立ち至ったときに伸びた気がする。逆に部下後輩をこういう立場に本当に追い込んでいるかということも問われる。




p182

世界を意味で満たし、世界に新たな人間的価値を創出するのは、人間のみに備わったこの「どのようなものをも自分宛ての贈り物だ」と勘違いできる能力ではないのか。

↑この部分の引用だけではわかりづらいかもしれない。

わけのわからないものに、勝手に価値を見出し、ありがとう、と言えるのは人間だけであり、そういう人が新たな価値を作る出発点になるということが論じられている。

上司のわけのわからない振る舞いを「何か自分を成長させる意味があるのかも」と思う人と「全くわけがわからない」とだけ思う人とでは成長に差がでてくるということだろう。

ビジネスライクな損得だけで考えることを戒めるために、レヴィ・ストロース等の知見を引いて「贈与」という概念を軸に語られた、この第7章は特に良かった。

ビジネスライクな損得、あるいは「合理性」というものについては最近また色々と思うことがあるので、時間がある際にまとめてみたい。