山下達郎が語る仕事力

新作のプロモーションで、山下達郎の露出が多くなっている最近ですが、朝日新聞に週一で掲載された全四回の連載も終わり、WEBに四回分が揃いました。

個人的に一番印象に残ったのは第二回。

http://www.asakyu.com/column/?id=1031

夫婦でCMに出ないかと誘われたことがあります。2日間の拘束で相当なギャラでした。でもそんなことをしたら、自分の曲が書けなくなります。曲を書くのは大げさに言えば命を削る作業なので、できなくて苦しんでる時に頭に浮かぶでしょう、またCMに出ようかなって(笑)。曲を書く以外に生きる道はないところに、いつも自身を追い込んでいなければと思うのです。


黙って真面目に
働く人こそ仕事人だ


 僕はアーティストという言葉が好きではありません。知識人とか文化人といった、上から目線の「私は君たちとは違う」と言わんばかりの呼称も全く受け入れられない。名が知られていることに何の意味があるのでしょうか。市井の黙々と真面目に働いている人間が一番偉い。それが僕の信念です。

 昔からハワイやアジアなどの海外公演の誘いがたくさんありましたが、全く興味がありません。そんな時間があったら、日本のどこかで真面目に働いているファンのために演奏し、歌いたい。それが僕に課せられた責務だと思っています。

 指物師が尺も何も使わずに目分量で切って、ビシッと寸分違わず枠をはめるとか、グラインダーの研磨の火花でアンチモンが何%入っているか分かるとか、本物の職人技を見ると心底感動します。きっとそういう職人たちは有名になることにはこだわりがないでしょう。人の役に立つ技術を自分の能力の限り追い求めているだけ。それが仕事をする人間の本来の姿だと思います。

 僕も姿勢は職人です。作った曲が誰かに喜んでもらえればそれでいい。この社会は職種に関わらず、懸命な仕事人の働きによって回っていると思います。(談)