三宅隆太監督が語る「スクリプト・ドクター」リターンズ
2011年8月20日 TBSラジオ ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル
特集:<脚本のお医者さん>イズ・バック! スクリプトドクターとは何か特集 リターンズ!」
番組パーソナリティの宇多丸氏が、三宅隆太監督に迫ったわけですが、これが予想通り面白かったので、メモしてしまいました。
自分はビジネスコンサルティングをしているのですが、思い当たる節がありまくりです。
ちなみに、2009年に行われた第一回はこちらなどに詳しいメモがあります。
以下は、基本的に三宅監督の発言です。
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復習あるいは前提
通常、映画の脚本は、一人の人が作ったものではない。
脚本家、プロデューサーなど、様々な人が関与して練られている。
しかし、色々な人の手が入るがゆえに、袋小路に入ってしまうことも少なくない。(「なんか、面白くないぞ・・」とか「無理があるよ」という脚本になってしまう)
そんな悩みを抱えた脚本を、第三者の視点で手直しを手伝う仕事がスクリプト・ドクター。(脚本のお医者さん)
大概、プロデューサーに呼ばれてプロジェクトに参画する。
仕事の性質上、ノンクレジット(映画の最期に名前がでない)のお仕事。
日本で、この仕事をしているのは7〜8人くらい。
「シナリオには類型別に理想の定型があり、その型どおりに当てはめていく仕事」と思われることがあるが、これは誤解。これから説明していく。
Q:どうやったらスクリプト・ドクターになれますか?
当然ながら公的資格などは無い。自分は子供の頃から映画をテレビで見てシナリオを書き起こすという作業をしているうちに、映画の構造が分かってきた。
業界に入ったあと、知り合いのプロデューサーとの雑談の中で、困っているという話を聞いて引き受けたのが最初である。
その後はクチコミで依頼が来ている。自分の場合は、脚本家でもあるので、脚本の悩みは実感として分かる。
ただし、自身が脚本家でないとスクリプトドクターになれない、というわけではない。
ドクターにもプレイヤー色の強い人から、自分では脚本を書かない人まで色んな種類があるし、それでいい。
Q:一本の映画に関与した場合、どのくらいの時間がかかる?
最短30分。
この場合は、シナリオを読まずに、プロデューサーとの会話だけで問題点が分かった。
シナリオを読むまでもない問題を抱えた企画だった。
一番長くかかった案件は4年半。
ある企画は、途中で何度か担当脚本家が変わっていた。その都度ドクターとして入っていたのでこんな長い付き合いになった。しかも、結局ポシャり、後に別のプロデューサーがあっさりと映画化*1した。
ちなみに今は6本の作品を抱えている。
抱えている悩みは、重症から軽症まである。重症すぎるものは、そもそもの企画の問題で、脚本の調整ではどうにもならない、ということもある。
Q:台本は何分くらいで読みますか?
貰った台本は、一言一句、印刷台本に打ち直す。自分で「言葉を掴みたい」ため。
映画の上映時間に合わせて読むようにしている。2時間の映画だったら2時間で読むように。
Q:脚本のリライト、とスクリプト・ドクターはどう違うのですか?
リライト=書き直し。対して、
スクリプト・ドクター=リライトで行き詰まった段階で、アドバイスをする仕事。
「オレならこうする」として書いてしまうのはスクリプト・ドクターではない。それでは脚本家が一人増えただけになる。
ドクターは、悩みの根本をを見つけて、なぜ問題が起こっているのかを見つけて、そのチームが自力で完遂できるようにアドバイスをすること。カウンセリングに近い。
皆にリラックスしてもらう、プロデューサーと脚本家の自意識のぶつかり合いを解消するのも大事な役割。
Q:アドバイスってどういうレベルでやるのですか?
「このシーンは要らない」とかのアドバイスはミニマムレベル。出来て当たり前。
エンターテイメント映画(ハイコンセプト)は、ある程度、シナリオの黄金律があるので、アドバイスしやすい。
作家性の強い映画(ソフトストーリー)は、アドバイスが難しい。作家の自意識が、シナリオの障害になっていることが多いから。本人でないと修正できないことが多い。本人の良さを削らず、丸めず、引き出すことが必要。
脚本家とプロデューサーとの間の通訳になるイメージ。カウンセリングの能力が必要だと思う。
今、カウンセリングの専門教育を受けていて、実は今度その資格も取る。
自分が冷静でなくなったら、「困っている脚本家」が一人増えるだけになってしまう。
Q:日本人のドクターが、海外の映画を扱うこともありますか?その逆は?
海外の映画、やりますよ。日本が出資しているプロジェクトもありますし。
Q:スクリプトドクターになるには、どんな勉強をしたら良いですか?
物事の悪い面ばかり見ないようにすることですね。シナリオを見て、ここがダメ、と指摘するのは決して、難しいことじゃない。概して、悪いところの方が派手なんで、分かりやすい。
でも、良い所を見つけてそこを伸ばす方が早道なんですよ。
脚本家とスクリプト・ドクターは資質として違っていると思う。その点は注意ね。
オレならこうする、これを表現したい、というのが脚本家。ドクターはその役割とは違う。
映画美学校で、こんど自分がこの点を講義するよ。
Q:一つの作品に関わるドクターは一人ですか?
一人という決まりは無いですよ。
作品により、向き不向きもある。別のドクターを呼んだほうがいいこともある。
脚本を工業製品のように分析しているように見えて、とても人と人との「ご縁」である仕事。
なぜなら、脚本は人の心から出てくるものですから。
Q:やりがいを感じる瞬間は?
僕が提案したアイデアに「いや、それ違うよ」と言った脚本家が、それが引き金になってその脚本家の中から新たな良いアイデアが出てきたときかな。自分の指摘通りに変更してくれなくて、全然良いんですよ。
「悩み」の状態とは、本人がグレーゾーンに入ってしまうことだと思う。
「白じゃない?」と僕が言うことにより、脚本家が「自分が求めているのは黒だった!」と分かることがある。それで良い。
ドクターなんていう言葉は堅苦しくて良くない。
プロデューサーが僕を呼んだことに対して反発する脚本家も居る。
シナリオ相談おじさん、とかでも良い。
宇多丸:困ったら、「違う外部の風を入れてみる」のは良いですよ。ものづくり全般に言えることです。
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