仕事漂流 就職氷河期世代の「働き方」/稲泉連


仕事漂流 ― 就職氷河期世代の「働き方」

仕事漂流 ― 就職氷河期世代の「働き方」


著者は1979年生まれ。大宅賞最年少受賞のノンフィクションライター。

本書は、同じく1979年生まれ前後の「学歴エリート」数名の就職とその後のキャリア(転職)を描いたノンフィクション。玄人筋(雇用・キャリアなどを専門にする人々)の間で結構、評判が良いことは前から知っていた。


実際読んでみると、丹念な取材と、高い文章力に裏打ちされた、立派な作品。僕も仕事で取材とか記事執筆をするから感じるが、本書の登場人物一人あたりには、かなりの時間を掛けていることが分かる。ちょっとした一つの文章に込められた情報に、深い取材が無いと書けないフレーズがあったりして、偉いなぁと思う。

1979年生まれの本書登場世代は、綺麗事でない「会社・日本の組織」の現実についての情報を受け取ったり考えたりする機会が少ない無いままに、「自己実現・自己責任イデオロギー」だけをメディアなどから浴びせられ続けた。その結果として、なまじ問題意識の高い人ほど、就職してから現実と理想のギャップに悩みが深くなってしまう。

本書で取り上げられる若者たちのこうした葛藤をどう見るか、分析するか、そして評価するかは、読み手の年齢とか立場とかに大きく影響されるだろう。



そういう悩みはある程度「時間」が解決してくれるものだ、ということを、30代半ばのおっさんである自分は今でこそしたり顔で語るわけだが、自分も(本書で中心で描かれている)26才くらいのころってかなり内面的に苦しいことだらけだった。まさにこの年代渦中の人には、とにかく頑張れ、他の人に相談して、自分の考えを変えてみろ、と言いたい。本書の登場人物にも対しても結構感じたけれど、「他の人に相談」はしているものの、それが自分の正当性を確認するためだけに留まってしまっている人が多いのが現実のような気がする。自分を変える気がないなら相談してもあまり意味ない。



この本を読んで感じたことを語るのは結構、難易度が高い。色々なことが頭に渦巻く。これは本書が高いクオリティを持っているということだろう。この本をケース題材に様々な年代の人を一つのクラスに集めて「キャリア観研修」をやったら面白そう。