宇宙飛行士の採用基準 たとえばリーダーシップは測れるのか/山口孝夫




工学と心理学を修めて、JAXAで宇宙飛行計画に携わる方による本。日本と世界の最先端で、さまざまな知見と豊富(なのかどうかはわからないが)な予算を使って行われる「採用」「人材育成」とはどのようなものか、を垣間みることができて楽しかった。



(備忘めも)

・「不安」と「恐怖」はどう違うか

・組織の中の「権威勾配

・大事故が起きる際の「スライスチーズモデル」

NASAでは、部下を叱りとばすようなリーダーは厳しく指導される。(それにより、その後、重大な情報が上層部に上げづらい組織になることを、過去の事故の経験からおそれているため)

・宇宙飛行士の応募の推薦文一つとっても、読む側からすると千差万別であり、その人が所属コミュニティからどの程度大事にされているかは伝わってくる

・『よく、リーダーやフォロワーというものは、潜在的な性格による別々の能力だという考えがあります。しかし、宇宙飛行士を見ていると、本当のフォロワーというのは本当のリーダー、本当のリーダーというのは本当のフォロワーだということに気づかされます。(p137)』『つまり、自分が集団に対して出来る事を正しく把握でき、行動に移すことが出来る人にとっては、リーダーとフォロワーというものはただの役割の差でしかありません。フォロワーだけで終わる人、リーダーだけで終わる人というのは、実は集団行動における自己管理能力の段階で不十分と言えます。(p138)』


・『実は、怒られるとその場では確かに被訓練者に学習が促されるのですが、長期的な視点で見ると、怒られて学んだことは忘れやすく、身に付かないということが訓練の現場ではよく見られます。さらに、学習したことの応用力も低下するようです。』『怒られて学習したものというのは、被訓練者の脳内では「訓練者が怖いから覚えている」からだと私は考えています。つまり、「怖い」という感情と「覚える」ことが重なって学習されてしまっているために(略)』『心理学的には、信頼関係のある訓練者に、穏やかでストレスのかかっていない状況で教えられる方が、被訓練者の頭にも入りやすく、覚えやすい上に応用が利くとされています。(p165)』


 選抜に「誤り」が許されない宇宙飛行士の採用プロセスは何次にも渡り、私情や主観が入らないように科学的思考の粋を尽くして綿密に設計されている。たとえば、面談の答えも印象評価にならないよう、事前の取り決めにより点数化されて処理されるほどだ。にも関わらず、最終的に合格する宇宙飛行士は、(選抜の初期の初期である)筆記試験の段階から「何かのオーラが出ている」ことで筆者に記憶されていることが多い、といううことだ。この逸話には「人間」という存在の深淵を感じた。