大竹文雄『競争と公平感 市場経済の本当のメリット』

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)




労働経済学者、大竹先生の近著。労働経済学の知見をベースに格差問題や社会保障などまでに対して、ごくごく真っ当なご意見を展開されるので、いつも読んでいる。本書は最新の一般向け本で、読みやすいし、面白い。

たとえば、第一章の最初の節では、国際的なアンケート比較を通じて「(市場経済に対する)価値観」が国によってかなり異なる*1こと、しかしそうした国民性的価値観も不変ではなく時代によって変わること、などを紹介している。他にも宗教観と経済成長の関係、格差を問題視する国としない国、など興味深い論点が満載。

人事制度の構築や運用では「公平感・納得感が大事」とよく言われるけれど、そうした議論をする上で必要なベーシックな見方が蓄積できる。

地味な本でインスタントに役立つノウハウではないけれど、確実にモノの見方を深めてくれる、オススメです。

「競争と公平感−市場経済の本当のメリット」(中公新書 2045)

                   大竹 文雄著
目次

プロローグ 人生と競争
I 競争嫌いの日本人
 1 市場経済にも国の役割にも期待しない?
 2 勤勉さよりも運やコネ?
 3 男と女、競争好きはどちら?
コラム1 薬指が長いと証券トレーダーに向いている?
 4 男の非正規
 5 政策の効果を知る方法
 6 市場経済のメリットは何か?

II 公平だと感じるのはどんな時ですか?
 1 「小さく産んで大きく育てる」は間違い?
 2 脳の仕組みと経済格差
 3 20分食べるのを我慢できたらもう一個
 4 夏休みの宿題はもうすませた?
コラム2 わかっているけど、やめられない
 5 天国や地獄を信じる人が多いと経済は成長する?
 6 格差を気にする国民と気にしない国民
 7 何をもって「貧困」とするか?
 8 「モノよりお金」が不況の原因
 9 有権者が高齢化すると困ること

III 働きやすさを考える
 1 正社員と非正規社員
 2 増えた祝日の功罪
 3 長時間労働の何が問題か?
コラム3 看護師の賃金と患者の死亡率
 4 最低賃金引き上げは所得格差を縮小するか?
 5 外国人労働者受け入れは日本人労働者の賃金を引き下げるか?
 6 目立つ税金と目立たない税金

エピローグ 経済学って役に立つの?
競争とルール あとがきにかえて

*1:ちなみに、日本は市場経済に対する信頼感が最も低い、一方で、社会保障を国に頼る気持ちは最も低い、謎の特性を持つことが明らかにされている