フォックスキャッチャー/ベネット・ミラー監督


映画『フォックスキャッチャー』予告編 - YouTube

 

「アメリカの狂気」を冷徹に描いた映画、が昔から好きです。具体的にはポール・トーマス・アンダーソン監督の作品群であるとか、コーエン兄弟の「ノー・カントリー」とか。本作はまさにその系譜でしょう。

 

これらの映画が突きつけてくるのは、結局のところアメリカの現代というのは「金・暴力・狂気・歪んだ人間関係」に尽きるだろ、というメッセージです。これは、アメリカに限定された話ではなくて近代人間社会に共通するものでもあると思います。決してアメリカだけがおかしい、という話ではありません。だから、興味を惹かれるのだと思います。

 

作監督のベネット・ミラーによる「マネーボール」もかなり好きな作品なのですが、あの作品は脚本がアーロン・ソーキンということもあって、セリフも多く展開も巧みでした。対して今作は、セリフが少ない、音楽も少ない、(そして最終的には登場人物の関係が破綻して殺人になるんだよね*1という共通理解もある)という中で、ずっと高い緊迫感が映画を支配しています。映画館中が固唾を飲んでる雰囲気、これが映画館で見る醍醐味でもあり、良かったです。疲れましたけど。この空気感づくりは、監督の演出力の賜物でしょう。アカデミー賞で監督賞に推されているのも分かります。

 

役者の皆さんの演技がすごい、というのは本作については言われ続けているところですが、日本人である自分はこの役者さんたちの普段の姿を知らないため、「ギャップ萌え」の要素はないものの、そんな要素は無くても超一級の役作りと演技であることは伝わってきました。

 

今回の鑑賞場所は渋谷のシネマライズ。相変わらず味のある建物です。本作、日本で受ける要素の少ない映画だとは分かりますが、観客は少なくて残念。こういう作品を楽しめる同好の人が増えて欲しいです。 

*1:実は私は誰が誰を殺すのか知らずに行ったので、余計に疲れました。アメリカ人なら皆知ってる事件なので、それを知ってから見にいくのもネタバレとまでは言わないのでしょうけれども、知らずにいくのがオススメです。疲れますけれど。