明日を拓く現代史/谷口智彦


明日を拓く現代史

明日を拓く現代史


著者は、本書脱稿後、安倍政権の内閣審議官に登用され、現在スピーチライターとして活躍している、という。

第7章までが特に面白かった。戦後の日本が立ち直るにあたって、どれだけアメリカの世話になったのか、ただし、それはアメリカの善意というだけではなく、アメリカの冷徹な世界戦略の中の一つの駒だったから、というあたりの描写を、いわゆる「左翼」でも「民族派」でもない立場から書いているのが本書の一つの特徴かと思われる。私見ながら、最近の民族派には「アメリカなんか関係ねぇ、頼んで世話してもらったわけじゃない」という意見があると感じるが、本書のような知識を持てば、そんな単純なものでもない、と分かることができると思う。頼んだか否かに関わらず、アメリカの支援が無ければ今の日本は全く違う状態になっていたに違いが無い。

一方で、本書全体の記述バランス的については少し気になる。アメリカについては戦争後、日本に良くしてくれたことは多く書いている一方で、日本の民間人に大量の死者を出すような酷いことをしたことについて記述は少なかったようにも感じる。アメリカについては「非道さ*1」と「恩」をバランス良く認識することが重要だと思う。しかし、これはなかなか難しいのだろう。

第8章、毛沢東の「大躍進」政策の失敗(大量の餓死者を出した)に強くフォーカスし、というか、それだけで中国を論じているが、これはちょっと極端にフォーカスし過ぎではないかと思った。もちろん、ここにある「大躍進」の悲惨さや、それを日本人があまり知っていないことは問題だという点に共感するのだが、中国についてはもう少し厚みのある見方・情報・勉強が必要なように思う。(Wikipediaに残るプロパガンダの痕跡、の話は面白かった)

第9章、第10章は、リアリズムを説いて来た本書前半とやや矛盾するような情緒的な内容のようにも感じられたが、日本が世界の中で民間レベルで地道な努力を続け、結果として好感を得ている、ということにもっと自信を持つべき、という著者の立場には共感できた。

*1:最近、オリバー・ストーンがやってた歴史の連続番組は、これををよく指摘していた