競争の作法─いかに働き、投資するか/齊藤 誠


競争の作法 いかに働き、投資するか (ちくま新書)

競争の作法 いかに働き、投資するか (ちくま新書)

本書の内容 

経済成長が幸福に結びつかないのか?懲りずにバブルに踊る日本人はそんなにバカなのか?標準的な経済学の考え方にもとづいて、確かな手触りのある幸福を築く道筋を考え抜く。まったく新しい「市場主義」宣言の書。

出版の告知宣伝を見たときから早く読みたかった本。そして予想通り、すごく良い本だった。

グローバルな競争にさらされている日本経済は、生産性にてらして生産コストが2割高すぎる。

経済学者としてその教訓を真正面に見据えて正攻法の処方箋を書くならば、日本経済全体で、

第一に生産性を2割向上させる

第二に生産コストを2割引き下げる

という二つの道のいずれかしかない。

(本書より引用)


自分は経済学の専門家ではないので、妥当性はわからないけれど、本書の1章・2章は、この日本は生産コストが2割高すぎる、ということを実証的に説明したものである。



ここまでだったら、普通の経済学者が書いた本という感じだが、著者が一味違うのはここから先だ。

承前

ここまでは他人ごとのように書くことが出来る。

この日本経済に対する処方箋を一人ひとりの個人に落としこんでみると、各人が自らに四つの質問を投げかけなくてはならないことになる。

1、自分は、自らの生産への貢献に対して給与が多すぎないか?

2、自分は、自らの生産への貢献に対して給与が少なすぎないか?

3、他人は、彼の生産への貢献に対して給与が多すぎないか?

4、他人は、彼の生産への貢献に対して給与が少なすぎないか?

答えがイエスであれば、その状況をすみやかに是正して、生産への貢献にあったレベルに給与を修正していくことである。

今、日本経済で働いているもの、一人ひとりに問いかけられている問題とは、とどのつまりは、四つの質問に正直に答え、答え如何によって自分の、あるいは他人の給与の修正を受け入れることができるかどうかだと思う。

(本書より引用)

個人的にも実感として共感できる問いかけだ。問題の焦点はこうした合意形成をどうやって行うか、という点だと思う。そこを筆者はひとりひとりの覚醒に求めているようにも読めた。


更に、著者は実際に「隗より始めよ」として自分の職場(一橋大経済学部)で、高年齢者優遇の労務管理体系の導入案に対して闘争を起こす・・・。(ご自身も若手、というご年齢ではないのに「若手の機会を奪うな・・」と主張して)

こんな闘争が、全国の職場で多発するようになると確かに日本は変わりそうだ。詳細はぜひ、お読み下さい。


あと、リーマンショックによる労働コストの圧縮(派遣切り・・・など)が、マクロ的に見れば実はほとんど意味のないものであった話なども興味深かった。


タイトルからはあまり直接的に示唆されないものの、人事関係者・労務周りの専門家こそ読んだら色々考えさせられる本だと思った。