空飛ぶタイヤ/池井戸潤


空飛ぶタイヤ

空飛ぶタイヤ


作者の池井戸氏が最近、直木賞を受賞したので、まずはこの評判の高い一冊を読んでみた*1


数年前に実際に起こった自動車会社のリコール隠し事件を題材とした作品である。

トレーラーの走行中に外れたタイヤは凶器と化し、通りがかりの母子を襲った。タイヤが飛んだ原因は「整備不良」なのか、それとも…。自動車会社、銀行、警察、週刊誌記者、被害者の家族…事故に関わった人それぞれの思惑と苦悩。そして「容疑者」と目された運送会社の社長が、家族・仲間とともにたったひとつの事故の真相に迫る、果てなき試練と格闘の数か月。

池井戸氏は、元三菱銀行員というキャリアを持っている。

それだけに、銀行の論理と大企業サラリーマンの習性、中小企業の苦しさと矜持、日本のビジネス界における(決して気持ち良いとはいえない)「慣行」を知り尽くしている。それでいて、「夢」を感じさせる応援歌的なエンターテイメントを提供してくれるのだから、日本のビジネス人にウケない筈がない。




本作でも、財閥系の、ホープ重工から分離したホープ自動車、及び、東京ホープ銀行(苦笑・・・としか書けない)の内情についての記述はとても鋭い。

でも、それ以上に「凄いな」と思うのは、中小企業の疑似家族的な共同体感を描く筆致だった。個人的には大企業描写パート*2よりも、こちらに揺さぶられた。




そしてこの小説、一直線に書かれているようで、とても緻密な構成がされており、色々な「対比」が上手くストーリーに織り込まれている。たとえば、「コンプライアンス」を巡り、何種類ものエピソードが張り巡らされ、学校のPTA問題もその一つだと思った。この辺の緻密さがやはり銀行員、といったら失礼にあたるでしょうか。




最近、自分の読書傾向がマニアックなものが中心となり、広く人に薦めたいと思う本をあまり読んでいないが、これはとても多くの人に薦めたい/薦められる、と思った小説だった。

*1:数年前に別の著作を一冊、読んだことはあるんです。それも面白かったです。

*2:普段、そういう中で生きてるからね…。