未来を生きる君たちへ(原題:HÆVNEN(復讐)/英題:In a Better World)


町山さんがラジオで紹介していたときから、日本公開が待ち遠しかった本作。デンマークの映画で、昨年多数の映画賞を受賞したもの。

デンマークで暮らす少年エリアスは学校でいじめられる日々が続き、医師としてアフリカの難民キャンプに赴任している父アントンの存在だけが心の頼りだった。そんなある日、転校生クリスチャンがエリアスをいじめから守ったことで、2人は親交を深めていく。一方、アフリカにいるアントンは自身の離婚問題や、ひん死の患者たちの存在に苦悩していたが、そんな彼の前に子どもや妊婦までも手にかける悪党が現れ……。「アフター・ウェディング」のスサンネ・ビア監督が、暴力や憎しみに満ちた世界の中でも希望を見出していく人々の姿を描いたドラマ。第83回米アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した。






映画館で見てきた。

確かに「良い映画」だと思う。興味を持った人は是非見てほしい。*1



ただし、個人的には一つ解消できな疑問(違和感)が残った。以下、ネタバレ込みで書いてみたい。




それは、アフリカの描き方というか、アフリカシーンの使い方である。この部分が、この映画のメッセージ上、どう位置づけられているのかが良く分からなかった。



この映画の主題は、原題にある通り「復讐」であり、それに対する「赦し」である。この主題が、映画で描かれているアフリカに上手く反映されていないように感じたのだ。

あれじゃあ、単に「赦しを知らない野蛮人、そこに献身的に助けに行くキリスト教徒の医師」というだけに見えてしまう。


敢えて「キリスト教の医師」と書いたが、この映画はとても「キリスト教」的な映画であるとも感じた。典型例は、主人公の医師が、右の頬を打たれて次に左の頬を差し出すところ。聖書のキリストそのものである。

あと、クリスチャン*2くんが、親への恨みから、キリスト教的なものを否定し、ニーチェ的な領域に入りかけたのに、やっぱり最後には「赦し」に戻るところなんかも、とてもキリスト教的だなぁと思った。


話を「アフリカシーンの意味」に戻す。赦しをキーワードに収束するデンマークを舞台とした本筋の話と、救いのないアフリカシーンとの対比から、「赦し」による和解は、キリスト教徒の特権である、と制作者側が無意識に描いているのではないか、という、ちょっと穿った感想を持ってしまったのだった。




そもそも、アフリカがあんな貧困になったのは制作者達、主人公たちヨーロッパ人にも多大な責任があるだろう*3、とも思うわけだが、その辺の説明や言い訳も一切無いのも気になった。「911以降の世界情勢に一石を投じる」という作品なら、これは触れてほしいところである。英語タイトルのIn a Better World、って、アフリカと西洋を比較してるんじゃないよね・・・。



以上の分析は、あまりストーリーの本筋とは関係がない。デンマークを舞台とした本筋の話はとても良いと思った。



それだけにちょっとだけ感じた疑問を膨らませて書いたまでです。

*1:ただし、重いテイストなのでデートムービーとしてはオススメできない

*2:キリスト教的なるものから逸脱していく登場人物の名前をクリスチャンとしているのは決して偶然ではないですよね。

*3:北欧だから直接あまり関係ないかもしれないが…