ひたすら読むエコノミクス/伊藤秀史


ひたすら読むエコノミクス

ひたすら読むエコノミクス



著者の先生は一橋の商学部でミクロ経済、組織の経済学という分野を担当されている。実はかつて自分も授業(初心者向けのヤツですよ)を履修した事がある。立派な書籍や専門的論文は沢山出している先生なのだが、自分には難し過ぎて…、と思っていたら、多分、初めて書籍としては一般読者向けのものが出た。



この本はビジネス書、ではない。教科書、というのでもない。ミクロ経済学の概念的エッセンスを文章だけで説明*1する、という本だ。通読してみて、レベル的には学部1年向けかな…と感じたが、錆びついた自分の頭を整理するという意味では、30代後半の自分にとっても、十分刺激になった。


機会費用」「サンクコスト」「モラルハザード」など大学で経済学をやったら知ってるね、という言葉が平易だが結構厳密に議論されている。たとえば、冒頭で紹介されている「推移性」という言葉など、意外にしっかり理解するのは骨が折れた。(ここで挫折しそうになった情けない私)



こういう概念的に厳密な議論が好きになると…


ビジネスの現場でも、たまに何人かのビジネスパーソンが「それってモラルハザードだよね」などと口走ることがあるが、それを聞いて心の中で(この人の言っている意味、本来のモラルハザードと違うな…単に横文字使いたいだけかよ…)と思ったりする、「面倒くさい人」になってしまう。それが良いのか悪いのか…長くビジネスをやっていると単純には言えない気もしてくるのだが、少なくとも、分かっている人同士だと本質的な話が超短時間で進んだりもするし、本書の第一章でもローレンス・サマーズ元財務長官の「日本経済復活のカギは『勉強する』ことにあり」と紹介されているように、勉強するのはやっぱり必要だと思う。




私の仕事の組織人事コンサルティングでいうと、第6章 モラルハザードとインセンティブ設計、第7章 逆淘汰とインセンティブ設計 第9章 組織デザイン のあたりは、確かにこの分野に携わる人が共有しておいて良い基礎知識だと思う。日本の職場に「それって、典型的なプリンシパル・エージェント問題だよね?」というような仕事上の会話がもうちょっとあったら、少し何かが変わってくるかもしれない。



以下のリンク先が多少内容にリンクしているので、これを読んで興味が持てたら購入するのが良いのではないでしょうか。(というか数年前にこのWEB文章を知ってから、これ良い文章だな〜と思っていました)

https://sites.google.com/site/hideshiitoh/jp/pub-j/ronso0404

*1:正直言って図とか利得表とかは掲載しても理解のためには良かったのではないか、と思ったけど、多分文章で通す、というこだわりだったのだろう。