流れる星は生きている/藤原てい

流れる星は生きている (中公文庫BIBLIO20世紀)

流れる星は生きている (中公文庫BIBLIO20世紀)

昭和二十年八月九日、ソ連参戦の夜、満州新京の観象台官舎。夫と引き裂かれた妻と愛児三人の、言語に絶する脱出行がここから始まった。敗戦下の悲運に耐えて生き抜いた一人の女性の、苦難と愛情の厳粛な記録。戦後空前の大ベストセラーとなり、夫・新田次郎氏に作家として立つことを決心させた、壮絶なノンフィクション。


(この妻というのが、本書の著者藤原てい氏、子供三人は、6歳男、3歳男、1歳女であり、このうち次男氏が、後に数学者・エッセイストとして「国家の品格」などで有名になる藤原正彦*1氏である。)


僕は日本人とは何か、人間の本性とは何か、ということを考えたくて、今まで色々な理論書や教養書を読んできたが、本書はそれらの何倍も重たくこのことを考えさせられる材料を含んでいた。本書には、極限状態に置かれた日本人たちの利己主義、陰湿さが、筆者の飾らない、率直過ぎるとも思える筆致で淡々と描かれている。日本人、いや人間は、極限状態に置かれればこうなる、ということなのであって、日本人だからどうこう、というのはおかしいのかもしれない。もちろん、利己主義、陰湿さだけではなくて、根性、崇高さ、のようなものだって持ち合わせていることも描かれているが、飽食の時代に生きる自分たちが「日本人の美徳は元来、謙譲なのだ。」なんてしたり顔で言うのはおかしなことである、と強く感じた。





僕は比較的本を沢山読む方だとは思うけれど、この本は、自分にとってそれらの中でも特別に重たかった。何十冊かに一冊くらいの重たいインパクトがあった。


 僕をとても可愛がってくれた祖父は、満州からシベリアに抑留された経験があるというような事を聞いた(少なくとも家族と一緒には帰国していない)。比較的高学歴だったらしいが、そうしたこともあって、帰国後は、いろいろ苦労したと思う。そして、それらの事は僕には何も語らなかった。(僕が7歳のときに亡くなってしまったので聴くことはできなかった)

 父も大連の生まれで、記憶のないくらいに小さかった時分に本書と同じように引き揚げてきた経験を持つ。僕のルーツはここに繋がっているわけで、本書は2年くらい前に買ったまま積ん読になっていたが、ようやく読んだのは必然だったのかもしれない。読めとは強制しないが、自分の子供にもいつか読んで欲しいものである。

*1:僕は「国家の品格」は正直好きではなかったが、この「流れる星は生きている」を読んで、なぜ彼がああした主張をするのか、もう少し考えてみたいし、他の著作も読んでみようと思った