僕は君たちに武器を配りたい/瀧本哲史


僕は君たちに武器を配りたい

僕は君たちに武器を配りたい



ビジネス書大賞2012、を獲った本作。ようやく読んだ。


意外に「ありそうでなかった本」なのかな、という気がした。
「資本主義社会の現実を、金融機関等の商業的都合のカラクリを暴きながら書く」という意味では、ゴミ投資家入門シリーズの橘玲さんの著作などが先駆けとしてあったと思うが、この本はそれに加えて、現代資本主義社会の中での働き方、ということについての冷静な現実を新聞の論調などとは違った切り口で論じている点が新鮮であった。10年くらい社会人をやって、ある程度「めはし」の効く人間であれば感じ取っている現実に過ぎないぞ、と言えばそれまでだけど、意外にそういうもの(特に著者のルサンチマンに歪曲されていない冷静な考察)がまとまって開陳されることは意外に少ない。


本書の提示した「投資家的生き方」というコンセプトは面白い。言葉からは一見、「金持ち父さん」的な印象を受けるが、読んでみると「世の中の認識の歪みを見つけ、その是正にベットし、それが是正されたときに大きなリターンが得られる」とか「良く分からないものに投資してはいけない、自分の情報優位性で勝負できるところで勝負せよ」とか「短期で勝とうとするな、時間軸を意識して活動せよ」など、ごくリーズナブル(合理的)な主張ばかりである。


本書の特徴は、今の日本および世界は徹頭徹尾、資本主義社会であることを前提とし、その中でサバイブするためのアドバイスに徹底して集中していることだ。資本主義への懐疑、あるいは「価値」「思想」といったものが語られていない。その点は少し物足りなかった。


著者は、本書のエンディングで、英語やITや会計は、所詮使われるための学問であり、それらは出来なければ話にならないが、本当に必要なのは「リベラルアーツ」だ、と主張している。ただ、本書全体のトーンからすると、リベラルアーツを学ぶ目的が「他の人がやっていないことをやって、資本主義社会の中で利潤を獲得するために必要な差別化をしなさいよ」ということなのかな、との印象を受けてしまった。リベラルアーツは人間を自由にするという事も書かれているし、更に著者自身は、青年期に読んだ吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」によって自分の思想が形作られた、とも述べているが、この全体の構成で最後にリベラルアーツが出てきていることもあり、少しここは戸惑ったところでもある。この殺伐とした資本主義社会の中でリベラルアーツを学ぶ意味、もう少し自分自身も考えてみたい。



ちなみに、本書のメッセージの一つとして「情弱はカモられる、のが資本主義の世の中だ」というものがある。本書を読んだ人はもちろん気づいたと思うが、著者は東大法学部政治学研究科の出身で学部から直接助手に採用された、とある。この経歴の意味は理解しておく必要がある。元マッキンゼーということが全面に出されているが、むしろこちらの方が純粋な意味でいったら頭が良いレアな経歴なのだ。そういう人だからこう考え、こう言えている、というところまで含めて総合的に本書のメッセージを解釈することが重要だと思う。そこの認識が甘く、この本のメッセージを真に受けていたら「カモ」になってしまうかもしれない。