昭和陸軍の軌跡/永田鉄山の構想とその分岐
- 作者: 川田稔
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2011/12/17
- メディア: 新書
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年初に掘栄三「大本営参謀の情報戦記」を読んで衝撃を受け、片山杜秀「未完のファシズム」へと進んだ。不勉強だった昭和陸軍を一気にしっかりおさえようと、本書にたどり着く。
予備知識が十分とは言えない身には結構厳しいチャレンジだった。分量も多い。もう少し地図とか図表とか年表とか入れて欲しかった。初学者は別の基礎本を抑えてからの方が面白いと思う。しかし、分量の多さ故の面白さ、緻密に詳細に解説されることで初めて感じるもの、は確かにある本でもあった。
昭和陸軍というと「どう考えても勝てないアメリカ相手に、そのことを理解せずに戦争を仕掛けた精神論集団。空気に支配される組織」というイメージが個人的には強かったのだが、単純にそういう理解で片付けてはいけない、ということが「未完のファシズム」と併せて読んで*1よく分かった。陸軍トップエリートは欧州大戦を視察したり分析したりした経験*2からかなり現実的でダイナミックな構想を持っていた。本書は非常に仔細に書かれているので、対中国、対ソ連、対イギリス、対アメリカについて日本陸軍の中枢がどう考え、計算していたかがよく分かった。特に「イギリス」という国が当時アメリカとドイツ・日本の間で争奪の対象となり、これがアメリカ参戦に結びついた、という解説は自分にとっては新しかった。あとは、日米開戦前1年間のアメリカの日本の追い込み方はエゲツナイ。陰謀論的なものに与したくはないのだが、アメリカ側は日本の中枢部の構想や人間関係、国力などを情報戦により読み切って日本を追い込んだ、という印象を持った。
本書は、トップエリートの「構想」と戦争に至る史実が中心であり、本書の主要登場人物である陸軍幕僚の個々人が戦後どのような道筋を辿ったか、という個人史は記載されていない。気になったので、自分で何名か検索してみたが「まあ、この方は戦犯になってしまってやむなしかな」という人もいれば「え、この人、戦後こんなに長生きしたの?」という人もいた。歴史の重さを感じる。
(陸軍の主要登場人物がようやく分かってきたので、この勢いでもう少し陸軍研究を深める予定)