遠いリング/後藤正治

遠いリング (岩波現代文庫―社会)

遠いリング (岩波現代文庫―社会)

どちらかといえば制度設計屋だと思っていた自分が、仕事で人材育成の分野に取り組みだして4年目くらいになる。この分野の専門書を読んでいる中で「これはすごい!」と思った方々の一人が人材育成・組織学習をテーマとしている神戸大学松尾匡先生なのだが、その松尾先生が最近ブログで推薦していたので、読んでみた。そのブログに引用されていた言葉が良いな、と思ったので。

これは、1987年から数年間のグリーンツダというボクシングジムに集う人々を描いた群像ノンフィクション(そんな言葉があるのか?)で、講談社ノンフィクション大賞を受賞した名作らしい。確かに読んで見ると、才能・成長・師弟・運命・損得・夢・優しさ・自分との折り合い、等々の要素が凝縮して活写されている。

ボクシングとは持って生まれた「才能・素質」に大変左右されるスポーツらしいが「それ」だけで成功できるわけではない。そもそも人生とは「成功」って何だ?という問いが突きつけられるものだとも思うが、そういうことを静かに考えさせてくれる内容だ。静かに、と書いたけれども、実は第一章「絆のテンカウント」は特に素晴らしい内容で、読みながら涙腺がうるうる来てしまった。

「若者の人材育成」に関心のあるビジネス人にも大変興味深く読める内容だと思う。インスタントな自己啓発本を読むくらいのお金と時間があったらこの本を読んだ方が、人生の糧になりそうだと思った。

あと、この本を復刻して岩波現代文庫に再収録してくれた岩波書店の編集者に感謝を捧げたい。