インセプション


クリストファー・ノーラン監督作品。

自分は、「ダークナイト」(2008)で、ノーラン監督の醸しだす「ワールド」の完全なる信者になってしまったので、頑張って劇場まで見に行ってきた。

若干哲学的なテーマを持った凝った作りの話(ノーラン自身によるオリジナル脚本)の割には説明が適当だったりもするので、事前の評では、「訳が分からん」「眠くなった」などの意見もあるようだったけれど、自分は「眠くなる」こともなく、食い入るように見た。頭をフル回転してみないといけないタイプの映画である。でも、ストーリーは思いのほかちゃんとしていて、ちゃんと収まっていた。D・リンチ*1みたいに支離滅裂な話に持っていくのかと思っていたらそうでもなかった。

 映像と音楽も、いかにもノーラン風で、こういうのが好きな自分にとっては期待通り。小説でも舞台でも絶対に無理な「映画」でしか表現できないクリエイティブを堪能させてくれる。

肝心のストーリーは、「夢と現実」というテーマが注目されているようだが、自分としてはタイトルそのものであるInception(本人の自覚のない間に、ある概念を潜在意識へ植えつける)というテーマの方が気になった。

人間、Inceptionされずに生きていくことはできない。みんな、親からインセプション、メディアからインセプション、会社からインセプション、読書や映画体験からインセプション・・・されて日々生きている。こういう構造主義哲学風な基本的思想が、映画の根本にあるのかな、と思った。映画の中ではInceptionは高難易度のミッションとして扱われているが、実は逆に凄くどこにでもあるありふれた現象でもあるのだ。

あと、主役のディカプリオは昔からどうしても好きになれないが、渡辺謙はカッコイイし、準主役のジョセフ=ゴードン・レヴィットという役者も良かった。

こういう、分かりづらくて、ビジネス的にヒットするかどうかも微妙な企画に、リスクを取って大金を投じられるハリウッドはやはり映画ビジネスの厚みが違う。いくらノーランが「ダークナイト」で当てたからといって、自分が映画会社の社長だったら、この企画書は通せない気がする・・・。

でも結果的に興行的にもヒットしているらしく、こういう映画を結構受け入れるアメリカの映画マーケットの層の厚さも興味深い。

*1:昔から、なぜかこの人の作品が大好きで。ツイン・ピークスDVDBOX持っています