リーマンショック・コンフィデンシャル 倒れゆくウォール街の巨人/アンドリュー・ロス・ソーキン

リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上) 追いつめられた金融エリートたち

リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上) 追いつめられた金融エリートたち

リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下) 倒れゆくウォール街の巨人

リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下) 倒れゆくウォール街の巨人



2009年800‐CEO‐READビジネス書大賞受賞、「フィナンシャル・タイムズ」「エコノミスト」両紙の2009年ベスト・ビジネスブックということでアメリカで大変去年売れたらしい。原書だと1800円くらいで全部買えるのですが、高いお金を出して、日本語版を読みました。

とにかく上下巻で長いです。そして人名が沢山で、率直に言って私も含めて大半の日本人には読むのがしんどい本だと思います。

克明といえば克明、冗長といえば冗長な感じもするルポルタージュなのですが、面白いところは細部だったりします。当時の財務長官ポールソンの奥さんがどのような人だとか、同氏の弟がリーマンに勤めていたとか、大富豪バフェットの自宅が1983年に買ったままの質素な家とか、ゴールドマン・サックスの取締役会の様子とか。あとはキーパーソン一人ひとりの生い立ちが意図的にキッチリ書かれてあるので、年収数十億の投資銀行CEOと言っても、貧しい中から実力で這い上がってきた人が多いことなども、改めて実感できて面白いです。

後半は、映画ゴッドファーザーにおける5大ファミリー会議を思わせる、ニューヨーク連銀にCEO達を集めてリーマン救済のための緊急会議するところの描写が一つの山場。最後、バークレイズによるリーマンの救済プランをイギリス政府がウンと言わなかったことでリーマン倒産が決定するくだりなどは「英米は実は裏で繋がっていてつるんでいる」「アメリカでは政府と民間が一体なんだよ」といった陰謀論的な通説・俗説を否定するような感じで面白かった。他にもポールソン氏が中国に凄いパイプがあって「頼むからモルスタにお金出してくれ」と中国の国家副主席に電話するといった事実も、国際関係を見ていく上ではそういうことがある、と知っておくべきことだろうと思います。

そして、この混乱を収めるのに重要な役割を果たしたのが三菱UFJからモルガン・スタンレーへの出資であったのですが、そこのところ、特に日本人側への取材が(他への極めて膨大な取材に比べて)少し物足りないと思うのは、私の同胞びいき?

祝日の関係から、MUFGからの出資金は、9千億円の小切手という現物で受け渡しという異例の方法となりました。その小切手は、一分の隙もないスーツを着こなした三菱UFJのバンカー軍団の手でニューヨークの法律事務所にうやうやしく持ち込まれます。一方、待ち受けていたモルスタの幹部は、ヨレヨレの格好だった(疲れていたのと、日本人も若手一人くらいが運んで来るだけだろうと思って油断していた)というウラ話が掲載されていました。

これは、一つの面白エピソードとして軽く書いてあったのですが、自分としては、「ものすごく高額な小切手」という「モノに過ぎないもの」に対して、何らかの神聖性を見出している日本人と、それはあくまで紙切れとしてしか見ていない(軽視しているという意味ではなく、信用はそこで形成されているのではないと捉えている)アメリカ人の違いが象徴されていると感じ興味深いものがありました。