オリンピックの身代金/奥田英朗



奥田さんは、小人物の機微をユーモアを交えて描かさせたら日本一*1だと思う。しかし、本作ではその路線ではなく、シリアスでリアリティのある内容で攻めてきた。全体としてのストーリーに多少ご都合はあるけれど、一つ一つのディテールがとても濃い。(そのせいもあって、物語の尺が長大になった。)

結末が近づくにつれて、「この主人公、最後、どうなっちゃうのかな」という思いがどんどん大きくなるのだが、その始末のつけ方が、奥田さんらしかった。

文庫版解説の川本三郎氏は、吉田修一『悪人』と本作を照らしあわせていたが、個人的には『レディー・ジョーカー』を思い出した。忘れ去られようとしている貧困の亡霊的なものが、巨大権力に挑戦する、というプロットや渇いた感じのストーリーが似ている。

*1:Dr伊良部シリーズなど