自分探しが止まらない/速水健朗


自分探しが止まらない (ソフトバンク新書)

自分探しが止まらない (ソフトバンク新書)


TBSラジオの深夜番組としてやっていた「アメリカ西海岸の思想」という特集をPodcastで聴いたら面白かったので、その流れで。

タイトルからは、若者を揶揄するドキュメント本のような印象も受けるがそれ以上に興味深いところがあった。

幾つか抜粋。


p52 
自己啓発セミナーは第二世界大戦後にアメリカで開発されたリーダー養成のための研修の方式であるセンシティビティトレーニングにと、1970年代以降に生まれたニューエイジ思想が結びついて生まれたものと言われている。



p56
「人は脳のポテンシャルの10%しか使っていない」などと良く言われるが、これもまさにニューエイジの発想そのものだ。その備わった能力を、集団セラピーや心理療法で引っ張り出そうという試みが自己啓発セミナーの原点である。ちなみに、「人は脳のポテンシャルの10%しか使っていない」というのは、一般に広まっている学説であるが、実際のところ根拠はない。



p58
セミナーを行うことで得られる効果は、自己啓発本などと同じで「ポジティブシンキング」である。本を読むことよりも、強烈な体験を経て刷り込ませた方がより強いポジティブシンキングが身に着くというのは想像に難くない。一時期、企業の多くが自己啓発セミナーを取り入れていたのは、一種の通過儀礼と言って良いだろう。



p65
現代における信仰、もしくは宗教とは、必ずしも教団組織が存在し、それに所属するという形をとるとは限らない。むしろ、教団組織も経典もそんざいせず、商品として流通して消費されていく一般消費財としての信仰の方が主流となっている。(略)「ニューエイジ」は脱臭化、商品化された新しい宗教とも言えるだろう。

実は、自分は小学生のころ「ニューエイジ思想」にわりと傾倒(笑)していた。それは雑誌「ムー」を愛読していたから、と思っていたら、機動戦士ガンダムにもかなりニューエイジ思想が反映されている、ということを本書で知り、なるほど感があった。高校時代にはロックを通じてヒッピーカルチャーやフラワーチルドレン思想に親しんでいた。大学時代には、ぼんやりシリコンバレーに憧れる。恥ずかしいくらいにベタな遍歴だ。


そして今、ビジネスにおけるコンサルティングや人材育成業界の中に居て、たしかにその一部にこの「ニューエイジ思想」や「自己啓発思想」が入り込み、プリベイルしていることを実感する。(宗教よりのものから、ビジネス誌でのポピュラーな言説まで、幅は広い)それはアメリカから発して世界中に広がっているのだろう。



血縁共同体も神(伝統宗教)も衰退し、物質的には満たされてしまった高度資本主義社会において、個人には精神的に何か頼るものが必要である。その頼るものとしての「自己啓発思想」「ニューエイジ思想」が入り込んでくるのだが、それも最終的には、カリスマを中心とした人々の共同体になってしまう、という見立てはとても興味深い。(この辺はpodcastで話されていたことですが)

チャールズ・マンソンであり、麻原彰晃オウム真理教であり、スティーブ・ジョブズを中心としたアップル信者であり…。